In vino veritas: april 2005アーカイブ

まず昔話。

カレーというのは日本の料理。中央・南アジアが「起源」かもしれないけれど、おそらく英国経由でその昔日本に入ったのだろう。そして独特の発達を遂げた。ドイツ人は料理にカレー粉を使うことがある。屋台のソーセージにはカレー味のもの Currywurst も定番になっている。けれども、料理でカレー粉というのはそれほどメジャーではない。
フランス人たちはそもそも辛いものはダメ。かつてフランスの大学にいた知人から聞いたことだけれど、あちらの学生食堂で、ある日、クスクスが出た。フランス人の学生が、"Attention, c'est très fort!!"と叫んでいた。「気をつけろ、すげえ辛いぞ!」 で、食べてみたら、どうってことはなかったという話。
僕はテレビはろくに見ないのだけれど、以前、たまたま、タレントがフランスの家庭に滞在して、カレーライスを作っちゃって、ホストファミリーに妙な顔をされた番組を見た。あの、いろいろなタレントが世界各国で数日間ホームステイして、最後に泣いて抱き合って帰ってくるやつ。まとにかくこれまでのところ普通のフランス人はカレーは食べない。だからかつて西田ひかるがやらされていたフランスを舞台にしたレトルトカレーのコマーシャルには相当な無理がある。もちろんフランスを持ち出すとなぜかおサレな雰囲気になることを狙ったものと思われる。正当性があるとすれば、ブーケガルニとか、まあフランスの市場(マルシェ)でいつでも手に入るようなものが材料として使われていた、というだけのことだろう。

そういうわけで、その昔、ドイツの学生寮にいたとき、日本料理を作って食べさせてくれと言われて、カレーライスを作った。寮は飾り気のない作りの十数階のビルで、その7階に住んでいた。部屋にシャワーとトイレは付いていて、キッチンだけが各階共用だった。一つの階に20部屋ぐらい。7階は仲が良くて、月に一回、「階の食事会」 Etagenessen があった。回り持ちで何か作って振る舞うのだ。その食事会で今度はおまえが何か日本の料理を出せ、と言われて、カレーにした。ドイツ人はカレーライスなど知らない。だからいいじゃん、カレーで。「日本料理」ではないかもしれないけれど、「日本の料理」ではある(インドやタイのそれとは明らかに別物だし)。もちろんルーは使わず、タマネギを飴色に炒めるところから始めて、カレー粉から作った。ドイツの米は長粒米が普通だけれど、韓国系のつてがあって、わりあいおいしい米が手に入った。自分用の米は普段鍋で炊いていたけれども、このときはイラン人学生がなぜか持っていた炊飯器を貸してくれた。階には20部屋ぐらいしかないはずなのに、他の階の連中にも知れて、物珍しさから(単に飢えから?)、30人以上が集まった。何人も手伝ってくれたけれど、30人前の人参やジャガイモの皮を剥いたり、30人分のタマネギを炒めるのはかなりの仕事だった。ちょっとカレー粉を入れすぎて相当な辛さになっていたのだけれども、何杯もおかわりする奴もいて、幸いきれいに売り切れた。飲み物は、カレーに合わないことは分かっていながら、ビールとせいぜいワインしか知らないドイツ人の学生どもにはこれも珍しかろうということで、ドライマティーニ(これもまったく「日本」ではない)を作って出した。

で、別にドライマティーニに限らず、カレーに合う酒はない。だから、カレーというのは日本人の味覚をダメにしているのかもしれない。...という短絡的な仮説を立てていた。(なんで「だから」なんだ、と訊かないでください。短絡的だと言ってるでしょ。)僕自身、立派な日本人として(笑)、カレーライスは好きですけどね。カレーの時でも少し何か飲みたいという人は、ビールあたりで我慢しているのではないか。でも、ヨーロッパの料理であれ中華であれ(本当の)日本料理であれ、なんでもOKのさしものビールも、カレーにはあまり合わない。

最近、この本
勝身利子『ワイン好きの料理ノート』晶文社出版、 1994

を改めて読んでいて、カレーにワインを合わせる記述があることに気づいた。エビカレーにソーテルヌの甘口白ワイン。勝身さんのネタ元はディック・フランシスのミステリ『証拠』だそうだ。フランシスの競馬ミステリは数冊読んだ記憶があるが、ワイン商が主人公というこれは読んだことがなかった。この中に、ソーテルヌは「甘いものならなんでも、それにカレー、ハム、ブルーチーズ」に合う、という台詞があるらしい。

さすがにいきなりソーテルヌ(貴腐ワイン!)というのは値が張りすぎて、ちょっと試すには辛い。だから手軽に手に入るスペインはペネデス Penedès 地方のヘニウスのセミ・ドゥルセ(中甘口)でやってみることにした。(輸入業者や小売店の方、Xèniusを〈ゼ〉ニウスって「翻訳」するのはやめてくださいね。)
勝身さんがお書きになっているとおり、これは案外いける。ドイツの甘口ワインもいいかもしれない。

...これは最近の発見。

xenius.jpg

スロヴェニア・ワインの用語。スロヴェニア・ワインのラベルは創意に富んだ美しいものが多い(全般にスロヴェニアはデザインセンスにすぐれる)が、スロヴェニア語のみで表記されている場合が多い。だからワインを飲むためのミニ・スロヴェニア語講座その1。スロヴェニア語は固有名詞でもなんでもデタラメなカナがあてられることが多いので、音訳も掲げる:

zelo suho (ゼロ・スーホ):極辛口、very dry, brut (スパークリングワインのみ)
suho (スーホ):辛口、dry
polsuho (ポウスーホ):中辛口、semi-dry
polsladko (ポウスラトコ):中甘口、semi-sweet
sladko (スラトコ):甘口、sweet

参考: Mišo Alkalaj "Wines of Slovenia" Ljubljana: DZS, 1996
本書は現在手に入りにくくなっているが、その内容の大半はこちらで読むことができるようになっている。

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