クラシックの破壊

metronome.jpg19世紀の中途半端なテクノロジーがクラシックを破壊してきた、いまも破壊し続けていると、最近はほぼ確信するに到っている。メトロノーム(19世紀初頭の発明)と平均率ピアノ(最初の生産は1840年頃)のことだ。

音律の問題つまり平均率が問題であることに関しては、「古楽」系の人たちをはじめとして色々言われるようになって、近頃は一般の認識もかなり変わってきた。今のテクノロジーによれば、キーボードであっても、自在に音律を変えて演奏することもできる。たとえば、Mac 用の SuperPiano X は、そうしたテクノロジーの感嘆すべき成果だ。(安価な点でも感嘆すべきだ。)それでもいまだに平均率を前提した「絶対音感」など云々し続けている阿呆もいるが。

問題は拍節のほうだ。つまり、いまだに、というかますます多くの人々が、メトロノーム的な均等拍が拍だと思い込まされていることだ。

こんなことは、ちょっと音楽の分かっている人ならば、二言三言、ヒントのようなことを言えばすぐに分かってもらえるものと思っていた(以前かかわっていた音楽系某SNSでは、そういう反応も多く、意を強くしていた)。それが、違った。近頃かかわるようになったアマオケの、歳若い、非常に優秀なプレイヤーである友人たちが、まるで理解できずにいるらしいことに、ショックを受けた。彼らはそれほどまでにメトロノームの洗礼を受けてきてしまっているのだ。彼らに分かってもらうためには、これは相当腰を据えてかからなければならない。相当きちんと言っていかなければならない。

どうやら、今日、音楽家は、プロアマを問わず、2種類に分かれてきているように思える。拍節感を持つ者と、メトロノーム的な拍しか知らない者と。(漠然とした感覚で、その都度いずれにも意識せずに合わせている第三のカテゴリーの人々もあるかもしれない。)この種類の異なった者がアンサンブルをしようとすると、どうにも音楽がまとまらない。同種の者同士であれば、簡単にまとまる。それならばそれで、それぞれにめでたしめでたしのようだが、メトロノーム同士の音楽は、もちろん音楽の残骸であると、ぼくは考えている。最初に書いたように、19世紀的テクノロジーに殺された音楽の骸なのだ。ぼくはそんなものを聴きたいとは思わない。聴いていて、苦痛でしかない(かれらに合わせるのはもっと苦痛だ)。しかしそれが拡大傾向にある。だからこのメトロノームたちに、拍節とは何なのかをなんとかして理解してもらうことが、今、緊急の課題なのだと思われる。何しろ、この2種類異なってしまっていることも認識されていないし、だからなぜ合わせにくいのかも理解されていないのだ。

先日、いわゆる「古武術」系の書物をまとめて読んでいて、この点に引きつけて深く頷いたのは、一つは「日常的な、当たり前の身ごなしや技術は忘れ去られやすい」ということだ。当たり前のことは書かれない。ことさらに概念把握されない。だからいったん忘れられたらあまりにはかなく消えてしまう。もう一つは、甲野善紀氏が言っているという、「小成は大成を妨げる」ということだ。メトロノームでも音楽みたいなことはできる。でもそれは本来の古典音楽ではない。しかしメトロノーム的小成に安んじている人たちには、そのことが分からない。小成している、つまりともかく形になってしまっているように見えるからだ。だから、当たり前のことが発掘され、きちんと書かれなければならないのだ。

前々から、この拍節の問題に関しては、まとまった形で書こうと思い、紀要論文や、ブログでのメモの形で書き散らしてきた。材料は少しずつそろってきている。あとは、フーゴー・リーマンの読み直し、このジャンルでの重要な仕事である Hasty の『リズムとしての拍節』を評価すること、そしてまともな演奏の実測値の取得といったあたりが課題だ。いや、このへんは前々からやらなければと思いながら、雑事にかまけて先延ばしにしてきたのだった。今年はできるだけ一気に先に進めることにしよう。

    
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コメント(3)

長らくご無沙汰しております。
以前、茨城県の某大学でお世話になった者です。
久しぶりにこちらにお邪魔しました。
拍節の件をおまとめになるとのこと、大変に楽しみです。
首を長くしてお待ちしたいと思います!!

ご無沙汰しております。
平均律を横に一旦追いやって、純正律の音楽に
取り組み始めた身には、拍節の件は興味深いです。
私も首を長くしてお待ち申し上げますです。

sakai さん
ご無沙汰しています。あれはもう4年前だったかな? その後ほったらかしだったのでそろそろなんとかしないと、というところです。

jiwa さん
ありがとうございます。どうも仕事が遅いもので…。

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