ダルクローズ的教育ペシミズム

先に引いたダルクローズの本の中で、印象に残った箇所の一つがこれ。

「だが、多くを求めて人に恐れを抱かせてはならない。そんなことをしても、何も得るところはない...。他人のために〈より良いこと〉を望む者、他人に何かを──彼らが、自分が持っていないことに気づいていない何かを──求めるべきであると気づかせることによって、彼らの平安をかき乱す者を待ち受けているのは、悲嘆と落胆である。自分のことだけ考えて、あるがままの現実に満足して幸せに生きるがいい。他の人はみんな現状に満足しているのだから...。」『リズムと音楽と教育』山本昌男訳、全音楽譜出版社、p.14(訳文の一部変更)

ありふれた話かもしれないが、これは身につまされる。フロイディアンならここで防衛機制について語るかもしれない。

ダルクローズはもちろん、こうしたペシミズムは跳ね返すべきだと言っているのだが、あまり説得力がないというか、彼の本を読んでいると、とにかくそんなペシミズムは力任せに振り切って、強引に前進していった感じだ。体力気力がないと参考にならないというか...。いや、「汝の欲望をあきらめるな」と言うではないか...。

次はジョン・ホルト『ネヴァー・トゥー・レイト 私のチェロ修業』松田りえ子訳、春秋社から:

「生徒たちが教えられたことを学ばない。その理由の大部分は、自分はできないと生徒たちが思い込んでいるからだ。」(144)

この本当に不思議な心理にはいたるところでぶつかる。『ブリキの太鼓』のオスカーではないが、「成長」することを恐れている、「成長」したくないという心理がいたるところに蔓延している。もちろん、これも、ダルクローズ的な絶望の原因の一つだ。要するに、「教える」ことの難しさ。

年配になってチェロを始めたいきさつと洞察を綴ったホルトは、もともとアメリカの教育界で活躍してきた人だった。で、こんなことも書いている。

「可能性には限界がないのだろうか? もちろん、限界はある。でも私たちが思っているよりずっと遠くにある。」(126)

その通り。でも、それを分かってもらうのが難しい。

で、こうしたダルクローズ的ペシミズムを回避して学びの実効性を上げるための技術として、昨今は一部(どちらかというと「ビジネス・経営」系)で「コーチング」がもてはやされたりしているわけだ。もちろんそこから学び得ることは多い。「コーチング」に関しては、牛が汗をかいたり棟が一杯になってしまうほど書籍が出ているし、ネット上にもいろいろ転がっているだろうから、ここでは詳述しない。ちょっと面白いのは、もともとテニスコーチで、音楽家向けに『演奏家のための「こころ」のレッスン』も書いたガルウェイの名が、「コーチング」の始祖の一人として挙がってくることだ。

    
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