1998年に、ボンにいたとき、友人のエーベルハルトにさそってもらって、郊外の小劇場でハントケの『観客罵倒』を観た。登場する俳優は二人だけで、お互いにしゃべりあっていたかと思うと次第に客席に向かって罵詈雑言を吐き始める、そういう「演劇」だ。金属フレームで組まれた5、6段の客席の下に車輪が仕掛けてあって、芝居の途中で黒子が客席全体を前方の壁に向かって押していき、しばらくの間観客はただの壁と向き合わされたり、まあいろいろと時代に合わせて趣向が凝らされていた。周りの観客はすでに心得たもので、罵声をあびせられても、壁とにらめっこさせられても、ひたすらきゃあきゃあ言って愉しんでいる感じで、きっと30倍以上は(ってどういう数字だか分からないが)あったと思われる1960年代末の初演当時のインパクト(途中で憤然と席を立つ観客がいたなどということ)は想像する他なかったが、ともかく面白かった。

ドイツで購入したアロマオイル
そこでまるっきり話が飛ぶが、サイードによるオリエンタリズム批判からずいぶん経つというのに、「アロマ」界では、セクシー=オリエンタルという観念連合がまだ生き残っているらしい。エッセンシャルオイルは、おおまかに4つぐらいのカテゴリに分けられることが多いのだが、その中でイランイランとかジャスミンとかサンダルウッド(白檀)あたりがこのカテゴリに分類される。
イランイランやサンダルウッドは東南アジア産だけれど、オリエンタルという言い方が必ずしも産地に対応するものではないことは明らかだ。赤ん坊のイエスがプレゼントに貰ったことになっているフランキンセンス(乳香)は、エチオピアからイランあたりが産地だが、オリエンタルに分類されることはまれだ。柑橘系のベルガモットも、モロッコやチュニジアが産地だけれど、「オリエンタル」ではない。
注意深い書き手やショップはすでに「エキゾチック」、「ロマンティック」とか「セクシー」といった単語のみを使っているが、「オリエンタル」というレッテルもまだまだ健在で、どうやらそれは「催淫作用がある」「官能的」というのと同義なのだ。典型的なオリエンタリズム。「エキゾチック」という単語にしたって、(もともとヨーロッパの人間が)自分たちの欲望を外部に投影して見かけ上切り離し、自分たちのことじゃありませんよという顔をする方向性をもっていた点で「オリエンタル」と同じだ。
また話が変わるけれど、ドイツでは「クリスマスの焼き菓子の香り」や「レープクーヘンの香り」のオイルも売っていた。いったいどういう「効能」が謳われていたのだったか。



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