本のタイトルは『りんごの本』だが、頁を繰っていくとさまざまな果物が次々に現れる。色が鮮やかだし、一頁おきに透明フィルムになっていて、それをめくると果物の断面図が現れたり、なかなか楽しい。最後に出てくるのがベリー類。大きな赤い苺(ストロベリー)の描かれたフィルムのかげに、いろいろな漿果の絵が隠れている。

実は、ヨーロッパに行った時のささやかな愉しみの一つが、「さんぽをしたとき」、こうしたベリー類に出会うことなのだ。
スロヴェニアのボヒンの山地や、フランスのアルザスの山で、ブラックベリーやラズベリーを摘んだ話は以前に書いた。スロヴェニアのピランでも、城壁にむかって登る坂道の途中、ブラックベリーが多くの実を付けていた。ドイツのマインツやデュースブルクの大学近くの住宅地や森の際で、生け垣のように、なかば野生のように茂っているブラックベリーの大きな実をいくつも摘んで食べたこともある。(ただし、あまり低い位置に実っているものは、犬や野生動物が接触している可能性があり、雑菌がついているかもしれないから食べないほうがよいという。)ドイツの市街地には、小振りな実を付けるリンゴも多い。

ラズベリー、Himbeere, malina

ブラックベリー、Brombeere, robidnica
野山のベリー類ではないが、スロヴェニアの家々には、よほど街の中心部の集合住宅でないかぎり、必ずと言っていいほど菜園がある。葉物や豆類、ニンジンなどが植えられている。(面白いのは、田舎の鉄道の駅。石造りの箱形の、どっしりとして、しかし小さな駅舎の脇には、ほとんど必ず菜園があって、何本もの丈の高い支柱には豆のつるが絡みつき、伸び上がっている。住み込みの駅員がつくっているのだろう。)そして彼らの菜園には、多くの場合、何らかの果樹が加わる。ことに温暖で果物が豊富なヴィパーヴァ地方の家の庭には、果樹が必ずあり、シーズンには、プルーンの青紫色の実や、かすかに赤いリンゴや、小さく丸い黄色の杏(マレリツァ)がたわわに輝いている。一つの豊かさのイメージ。
実は、日本のベリー類を集めた国産絵本もある。古矢一穂絵、岸田衿子文『きいちごだより』福音館書店、2001年。動物や昆虫が、自分のすみかのあたりのキイチゴについて、他の仲間に手紙で語りかける体裁。4歳から小学校初級向き。これで見ると、日本にも実はけっこういろいろなベリー類が生えているらしい。でも僕が唯一覚えているのは、初夏の六甲の布引の奥、新道が開かれてあまり人が歩かなくなった、地蔵谷から天狗道に登る旧道で、くさいちごを見つけたことぐらいだ。林の中、丈は低く、二三粒しかついていなかったが、ほのかに甘かった。




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