スロヴェニアに行かれるYさんへの手紙

Yさん、少し言葉が足りなかったような気もするので、補足しておきたいと思います。

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Škofja Loka にて

Yさんご夫妻は「海外」での生活はほとんど初めてですよね? そのときに、あまり「日本」を背負う必要はないのではないか、と。

でもまず少し別の「問題」からお話ししましょう。
たとえば、多くの人がつい口にする言葉に、「日本のことも知らないのに〜なんて」というものがあります。でもそれはおかしい。

まず、なぜそこで国境が特権化されてしまうのか。世の中にはさまざまな境界線や断絶があります。世代の境界、女と男の境界、関西と関東の違い...。関西と関東は日本国内の話になってしまいますが、多くの境界線が、国境を、あるいはお互いを横断する形で縦横に走っているわけです。自慢ではありませんが、僕自身、日本のことで知らないことなんていくらでもあります。そしてそれは当然のことだと考えています。知らなくていいということではありません。必要や機会に応じて学んでいけばいい。ともかく、そうしたさまざまな境界線の中で、国境だけを特権化する理由はありません。(また、そういうさまざまな境界線や断絶の線が交差しながら走っているということは、あなたの隣にいる人物よりも、国境のあちら側にこそ、何らかの点ではあなたに近い人間がいるかもしれないということでもあります。)

なにより問題なのは、「日本のことも知らないのに〜」というフレーズが口にされるとき、それは「日本のことを知る」ことを促す機能は決して果たしていないということです。まず間違いなく、「日本以外のことを知る」ことを〈禁ずる〉ため、「日本以外のことを知る」ことから逃げるために口にされるのです。「英語もできないのにドイツ語/スロヴェニア語なんて」とか、この手のフレーズはすべて同じです。「Aもしらない/できないのにBなんて」という構造の文句は、ほとんどの場合、Aを学ぶことを促すのではなく、ただたんにBから逃げる、Bに近づくことをあらかじめ禁ずる働きしかしていないのです。

日本以外の人々から、日本について尋ねられて、何も知らないことに気付いた、というような紋切り型のストーリーもよく語られます。そういうことは確かにある。でもそこから上の「日本のことも知らないのに〜」という回路に入ってしまうとすれば短絡です。

尋ねてくる側のスタンスを見てみれば、この問いは、たんなる会話の種にすぎないことも多いことに気付きます。別に彼らは日本のことなどほんとはどうでもいいのであって、天気のことを話題にするのも限りがあるし、あなたが日本人だから日本について尋ねてやればいいだろうという実に安易なパターン、これは非常に多い。本当はたいして関心もないのにとりあえず尋ねてくるというのは、ある意味で非常に失礼ですよね。非常に限られた関心、言わば限られた「部位」(分かりますね?)に対する関心しか持たずに近づいていくことを、僕は「スケベ」と呼んでいます。

現地の語学学校などでも、授業のネタとして、生徒それぞれの国について語らせるということは多いですね。これもけっこうスケベです。答える側としてはもちろん、ある程度は話してやれるほうがいい。そして話してやれるためには、話すべきことについて知っていなければなりませんし、また、それを言葉にできなければならない。

でも、日本人だから日本のことについてよく知っているかというと、そんなことはない。いま現在の僕に、歌舞伎や茶道のことを尋ねられても困ってしまいます。「それは僕は知らない。それは僕にとってもエキゾチックなものなんだよ」なんて答えたりします。あるいは、「なんで僕が日本を代表しなければならないんだい?」とか。そしてそれでいいと思っています。安易な質問の安易な期待に対して、あるいはスケベな質問のスケベな期待に対して、応えるのを拒んだり、はぐらかしたりするのも、言葉できちんと拒んだりきちんと(?)はぐらかしたりできれば、(そしてできればさらに別の話を展開していってやれれば、)立派な「会話」、「コミュニケーション」です。(つづく...はず)

    
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このページは、takuyaがapril 4, 2006 6:32 PMに書いたブログ記事です。

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