Kammerflimmern (2004)

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冒頭、楽しげな家族でのドライブが一転して悲劇と化す。この設定はキエシロフスキの『青の愛』にちょっと似るが、ここでは7歳のパウルが両親を失う。
26歳のパウルは救急士助手になっている。「本人がまるで事故みたいな奴だから」、同僚からはもっぱらクラッシュというあだ名で呼ばれている。日々、ケルンの街のさまざまな事故に出動しては、人の命を救い、窮境にある人を助け、あるいは慰める。さまざまな出動のエピソードが丁寧に、しかしバランスを失することなく描き込まれる。そこに描かれるのは、言わばまさしく「剥き出しの」生であり死だ。

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救急隊の彼らには、夫に殴られたアルバニア人の女がまた殴られるであろうことは分かっている。16歳のアル中の女の子がまた彼らの厄介になるであろうことは分かっている。そんな人々の救助に奔走しながら、クラッシュには自分自身の人生と言えるものがない。唯一、彼のものと言えるのは繰り返し見る奇妙な夢。草地に横たわり、彼の方に両手を伸ばす若い女の姿。ある日、救助活動の中で、彼はその「夢の女」に出会う。妊娠9ヶ月のノヴェンバーと呼ばれる女の子。そのジャンキーの彼氏が頓死したのだ。ノヴェンバーとクラッシュの繊細な愛が始まる。臨月の彼女を自然にそのままに受け入れて、クラッシュは初めて自分自身の人生、自分自身の幸福を予感する。だが...。

タイトルの Kammerflimmern は、日本語の医学用語で何というのか知らないが、救急隊員が決して好んで関わりたくはないような、まず救うことは難しい心臓発作を意味するらしい。バラバラにすれば、Kammer は「部屋」。だからこの熟語では「心室」なのだろう。flimmern はちらちら光る、瞬く。そのへんをふまえてうまく選ばれたタイトルなのだと思われる。英語でのタイトルは Off Beat。

バヴァリア・フィルムの公式ホームページ(英語)
プレス向けの大判の画像(一部のリンクは間違ってもいる)の他は、あまり情報はなく、素っ気ない。

film.de : Kino / Kammerflimmern - Inhalt
このサイトで興味深いのは、実際に救急活動に従事しているらしい人々が熱烈な賛辞をコメントとして書き込んでいること。どうやら、ようやく自分たちの仕事がきちんと描かれた、という喜びと興奮に満ちている。

hoelzemann.jpg
監督は二十代半ば。ファティフ・アキンに続く才能の出現かもしれない。風貌もどこかアキンを思い起こさせる。だがアキンが劇場デビュー作の『短く、苦しみもなく』を除いてはほとんど「死」を扱っていないのに対して、ヘルツェマンはこの映画でほぼ正面から生と死に向き合っている。

結末は開かれている。クラッシュは結局どうなったのか。夢との符合はあざといと言えばあざといが、最後に出て来るそれこそが、この映画を印象深いものにしていることも確かだ。

この映画、バイエルン映画祭でジェシカ・シュヴァルツが主演女優賞を獲得したというニュースがあった時にこのブログで触れた。ようやく実際に見ることができて、その受賞にも納得がいく。以前のクヴァベック映画のシュヴァルツは、本当に単なるお人形で、つまらなかった。クヴァベックがヘルツェマンとちがって彼女の使い方を知らなかったのか、彼女が「成長」したのか、あるいはその両方なのかは分からない。クヴァベック映画のシナリオライターをやっていたヘルツェマンには、多分、シュヴァルツの真価を引き出してやろうという野心があったのではないかと憶測する。とにかく、この映画でのシュヴァルツは確かにすばらしい演技をしている。最初から最後まで、悲劇的な妊婦であるというだけでも十分に難しい役。(思うのだけれど、世に幸せそうな妊婦ほど幸せそうなものはないし、不幸そうな妊婦ほど不幸そうなものはないのではないか。)

もちろん、すぐれた映画はキャスティングにも隙がない。主演二人のジェシカ・シュヴァルツとマティアス・シュヴァイクヘーファーのすばらしさはもちろん、パウルの子供時代の役の子(名前は忘れた)は、その大きな目が、彼が長じてマティアス・シュヴァイクヘーファーになるということの説得力をいささか減じそうになりながら、まさにその印象的なまなざしによって、悲劇的な子供の役割を演じきっている。『グッバイ・レーニン!』で主人公アレックスの相棒として名脇役だったフロリアン・ルーカスは、クラッシュの相棒リーチーとしてここでもぴたりとはまっている。やはり同僚で父親的な役割のフィドー役、ヤン・グレーゴル・クレンプも巧みだ。ノヴェンバーのおなかの子の父親で、野垂れ死にするジャンキーのトミーは、DVDに収録されたインタビューでヘルツェマンが言っているように、そんな奴でありながらノヴェンバーに愛されるという難しいキャラクターを少ないシーンの中で説得的に表現しなければならないわけだが、カルロ・リューベックは見事その期待に応えている。

ここしばらくで僕の見た限りのドイツ映画のなかでも、つよい印象を残す映画だった。★★★★★を付けておこう。

ドイツ版DVDは、英語とスペイン語の字幕が選択できる。ドイツでは12歳以上の指定。

追記:...ありゃ、これも「ドイツ映画祭」で昨年6月に日本公開されていましたか。ここCINEMA TOPICS ONLINEにはヘルツェマンの「単独インタビュー」(語りの翻訳文体が何とも...)まで載ってるし。(このインタビューで初めて教えられたのだけれど、ヘルツェマンは自身7歳の時にひどい事故にあっていて─ただし両親を失ったわけではなくて一人での事故─、それがこの映画での生死へのかかわりの基盤になっているらしい。)
しかしまた『心の鼓動』って邦題はなんとも間抜けだなあ。僕に他にいいアイディアがあるわけではないし、考えた人は悩んだのだろうけれど。

    
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このページは、takuyaがjanuar 29, 2006 1:28 AMに書いたブログ記事です。

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