間抜けな失敗談を延々と書いているうちにクリスマスも終わり、今年ももはや終わろうとしている。最後に、書き残したことをいくつか。

スロヴェニアで購入した僕の携帯は、Vodafone系なのだけれど、ドイツではうまく使えなかった。アウグスブルクのホテルから、リュブリャーナの住居の大家さんに電話する。家の鍵も盗まれた。悪いことに、パワーブックなども一緒なので、犯人にアパートの所在地も知られ、侵入されるおそれがある。可能性はきわめて小さいとは思うが、どうしましょうか、と言うと、これからあなたがたが帰ってくるまで毎日見に行く。アパートの中に何か貴重品はないか、と言われて、ヴァイオリンを挙げる。畏友のA.R.から安く譲り受けたもので、時価なら150万円を下らないもの。それ以外、たいしたものは置いていなかった。家主さんは、われわれの留守のあいだ、そのヴァイオリンを持ち帰って保管し、われわれが帰宅すると同時に、鍵を付け替えてくれた。
日本の住居には、被害が及ぶことはないだろう。日本が、地理的な距離と、言語によって「守られて」いることも改めて感じた。(それは時にはマイナスにもなるのだが。)
この大家さんは、普段から問題への対処が迅速で、つねづね感謝している。住んで1ヶ月ぐらいのとき、ベッドのマットレスがあまりにへたっていて、腰痛になりそうだったので、ダメもとでそう訴えたら、すぐに取り替えてくれた。見ると、十年以上前のノヴァ・ゴリツァ製だった。自分たちではここに住むことはないし、これまでの借り手はそういうことを言ってくれなかったからわからなかった、ということだった。11月末だったか、洗濯機が壊れた。脱水時に、もともと異様に大きな音を立てていたのだが、その日、とんでもない騒音をたてたかと思うと、ぷすんと止まってしまった。スロヴェニアのメーカーで、でかでかと「Aクラス」というラベルが貼ってあった。この3月に入れたばかりなのに信じられないということだったが、これもすぐに飛んできて対処してくれた。まあまだ1年も経っていないのだから、保証期間内ということだ。聞けばメーカーはスロヴェニアでも実際のモノは中国製。家主さんの対応は速かったのだが、新品が届くまでには一週間以上かかってしまった。中国もなあ、いい加減、技術力も売る力もつけているのだろうから、そろそろもう少しまともなものを作った方がいいのではないのか。
話がそれた。自分の眠りの質についてもあらためて考えさせられた。寝台車で寝ているとき、浅い眠りだと自分では思っていた。しかし短い期間ではあっても、熟睡していた時は熟睡していたのだ。そして、犯人が侵入したときに、なまじ気づかなかったことは良かったのかもしれない。相手は少なくともちゃんと鋭利な刃物を持参していたのだ。失ったのは荷物だけでは済まなかったかもしれない。
ボンでは、もはやあまりいろいろな人に会う気力も時間もなかった。旧友のイタリア人トニーとドイツ人カーリンのカップルを訪ねた。直前に連絡したにもかかわらず、子供たちはプレゼントまでもらって大喜びだった。彼らのところでごちそうになった夕餉のひとときだけでも、ひどい旅をしてきた甲斐があったと思えた。
万事行き当たりばったりで、帰りの飛行機の切符は、前日、ボンの町中の旅行代理店で買った。片道で、直前で、えらく高くついてしまった。それでも、列車でリュブリャーナまで戻る気はしなかった。行きの寝台車の料金は安かったのだが、考えてみれば、最初から飛行機での往復だったら、今回の被害額も含めると、5分の1程度の出費だったかもしれない。
朝、ボンからフランクフルト空港までインターシティに乗り、昼過ぎにスロヴェニアのブルニク空港に着いた。途中、雲海の上に顔を出したアルプスの山々は真っ白だった。ドイツではあまり雪を見なかった。ボンはドイツの中でも温暖で、滅多に降雪がない。スロヴェニアに戻ってみると、留守の間にも少し雪が降ったようだった。



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