で、今回の話 その6

かつての寝台車と今回の寝台車、7年前のボンと今のボン、何が違うのだろうか。

今回はうるさい小さな子供二人を連れていたということが、まず条件の違いとして挙げられる。7年前のボンには、出生直後の長男も伴ったが、ベビーカーで寝ているだけだった。小さな子供がうろちょろしていれば、周囲に対する注意力は8割がた減じる。

大昔に僕が乗った寝台車は、ドイツ発、パリ発の寝台車と、「ユーゴスラヴィアの」寝台車だった。今回のクロアチア発とは車両や車掌などの条件が違うかもしれない。

しかし何より、この数年で、ヨーロッパの状況が大きく変化してしまったということではないか。あとから聞いたことだが、今のドイツのクリスマスの市などには、アルバニアやコソヴォなどからの窃盗団が進出してきているという。今回の「犯人」がそういう連中かどうかは分からないが、もはや数年前とはまるで状況が違うということだ。そして、そういう状態を作り出してしまった要因の少なくとも大きな一つは、ここ10年の西欧とくにドイツの、そしてアメリカの主導するNATOの、南バルカン政策なのだ。

犯人がもし、つい昨日まで、盗るか盗られるか、殺るか殺られるかという状況で生きてきた人々、その上もしかしたらさらに有無を言わさぬ無差別空爆を受けてきた人々だったとして、窃盗が罪だなどと説いてなんになるだろう。「混沌に適用されうる規範など、ありえない。法的秩序が意味を持つには、まず秩序が定まっていなければならない」(カール・シュミット)。徹底的に捜査して検挙率を上げ、必罰で臨むということは、懲罰の恐怖によって治安をはかるという古い考え方の一つだが、そもそも物理的に無理だろうし、法が最大の力を発揮するには内面化されなければ仕方ないのだ。懲罰への恐怖だけでは所詮弱い。そしてそれには数十年単位の、ある程度の豊かさと安定を伴う生活がなければならないはずだ。

地域を熟知しているはずの木村元彦さんですら、1、2年前のバルカン取材旅行の際に、ノートPCを盗まれたと仄聞した。そういう点で、やっぱりスロヴェニアは特殊なのだと思う。そういうスロヴェニアに4ヶ月以上にわたって浸かり、さらに大昔の寝台車の記憶、何年も前のドイツの記憶しかなかった僕は、間抜けなことに、現在のヨーロッパの状態を感知する能力が鈍っていたのだ。

    
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このページは、takuyaがdecember 28, 2005 12:00 AMに書いたブログ記事です。

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