ドイツ映画『グッバイ、レーニン!』では、コカ・コーラが当時の東から見た「西側資本主義」を象徴するものとして、効果的に使われていた。大小のコカコーラのトラックが左から右に走っていく背後で、衛兵が交替する。その、「交替! Ablösung!」という号令が、体制の交替に重ね合わされていた。
主人公アレックスの母親は、心臓発作で昏睡に陥っていて壁が崩壊したことを知らない。目覚めてからも、ショックを与えてはいけないから、母親にはあくまでも東ドイツが存続していると思わせておこうとする。ところが、よりによって母親の病室の窓の向こうに、コカコーラの巨大な宣伝幕が掲げられる。アレックスは、ビデオ編集に凝っている友人とニセのテレビニュースをでっちあげて見せる。そのインチキニュースで、友人演じるアナウンサーが、「コーラは50年代(だったかな?)の東側の発明であって、それを勝手に盗んで造っていたコカコーラ社が、そのことを認め、東ドイツで共同で生産することになった」といった説明をする。それに対する母親の反応、「あら、コーラは戦前からあったわよ?」という疑問符つきの指摘は無視される。
日本版DVD はこちら:
"グッバイ、レーニン!" (ヴォルフガング・ベッカー)
『グッバイ、レーニン!』には、「コーラ代わり」の飲み物の話はたしか出てこない。でも、またハントケの『反復』の話だが、そこには、主人公の少年が、夜、イェセニツェ(スロヴェニア北西部、オーストリア国境)の駅の食堂で「当時のユーゴスラヴィアでコカコーラ代わりだった黒っぽく甘い飲み物のビン」を前に、一人、座っているシーンがある。1960年のことだ。
この一節を読んだのは1990年代はじめのことで、それ以来、スロヴェニアには何度も来ているけれど、気がつかず、今回初めて目に付いて、これかな、と思ったのがこのコクタ Cockta。体制の転換後、つまり独立後、しばらく市場から消えていて、復活したのかもしれない。
現在の製造元、Kolinska のサイトの説明によると、コクタの最初の製造元はスロヴェニアワイン社 Slovenijavino で、1953年に商標登録されている。エメリク・ゼリカ Emerik Zelika という「コクタの父」の名も分かっている。つまりユーゴの、その中でもスロヴェニアの、発明なのだ。1953年3月には、プラニツァ Planica スキー場で、女の子たちに赤い服を着せて、大々的な発売記念イベント+プロモーションをやっている。ロゴデザインは当時の建築学科の学生(なんでまた?)で、書体は戦前の新聞、「スロヴェニア民衆新聞 Slovenski narod」のものを取ったという。
その説明文英語版の一部:
So Cockta is a harmony of excellent ingredients. The dog-rose berries being its essential ingredient offer it its significant flavour while the vitamin C gives refreshing sour taste. Different herbs, the integral parts of the Cockta formula, make it abundant, aromatic and different from all other cola drinks. Cockta is not a cola drink since its ingredients are completely different. Both drinks do not have anything in common except the colour. Cockta does not contain neither caffeine nor ortho-phosphoric acid and is suitable for the youngest generation.
野バラの実が主原料のハーブドリンク。カフェインもオルトリン酸も含まないから、小さな子どもにも飲ませられる云々。近ごろの日本ではローズヒップって流行っているのではなかったっけ。
しかし、コクタは他のすべてのコーラ飲料とは違っている、という表現(つまりコーラの一種であることを認めている)と、それにすぐ続く、コクタはコーラではない、という断言は矛盾してやしないか? ま、どうしたってコーラを相当意識せざるを得ないだろうし、実際、意識しているので、名前も(Coke とは関係なく、と言いたいのだろう)cocktail から取ったと言っている...。炭酸飲料メーカーは、単なる商品ではなく、ライフスタイルを売るのだとかいうあたりもコーラを意識しているのだろう。しかし、コカコーラは、その善し悪しは別として、一つの「ライフスタイル」を、(それどころか「西側資本主義」!を)象徴するものたりえていると思うが、このコクタはどうかなあ。
味は、なんと言うか...、でも、畏友 A. R. のように、コーラが死ぬほど好きって人もいるんだから、コクタが気に入ってしまう人がいてもおかしくはない。実際、これだけ店に出回っているからにはけっこう売れているはずだ(これもドイツでよく言う Ostalgie (旧「東」を懐かしむムード)現象の一つか? だとすればやっぱり「ライフスタイル」か?)。スロヴェニアにお越しの節はぜひ一度お試しください。僕はこのブログのネタのために進んで人体実験の被験者となりましたが、まあ、もう、いいです。
追記:この Cockta には light というのもあって(それもコーラみたいだ)、そちらも試してみました。こちらはよく冷やせばなんとかいけるかな、という感じです。



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