アウセニクまたは疑似民俗音楽(スロヴェニアの音楽 1)

スロヴェニアの音楽というと決まって出てくるものの一つがアウセニク Avsenik 兄弟。その音楽はドイツ語圏でオーバークライナー Oberkrainer (上部クランスカ音楽)の名で流通している。


"75 Jahre Slavko Avsenik" (Slavko und Seine Origi Avsenik, Slavko & Seine Original Oberkrainer Avsenik)

ブレットの近く、サヴァ川を隔てたカラヴァンケ山脈の麓のベグニェ Begunje 村のスラウコ・アウセニク(アコーディオン)とヴィルコ・アウセニク(クラリネット)の兄弟が、親がやっていた酒場の客のために音楽の演奏を始めたのは第二次大戦後まもなく。スラウコ・アウセニクは、伝統的な民謡を器楽化して演奏していった。これはそれまでのスロヴェニアの民俗音楽にはあまり見られないことだった。すぐにデュオ(ドイツ語版Wikipedia の記述によれば当初はトリオ)には飽き足らなくなり、アコーディオンとクラリネットにトランペット、ギター、バリトン・ホルン(日本で言うユーフォニウム)を加えたクインテット(+ヴォーカル)で、アウセニック・サウンドとでも言うべきものを確立する。
これを1953年にオーストリアにバカンスに来ていたバイエルン放送の音楽リクエスト番組の司会者 フレット・ラウホ Fred Rauch (1909-1997) が耳に留め、「オーバークライナー」の名でミュンヘンで売り出す。レコードを制作し、自分の放送で流す。これがドイツ語圏で大きくヒットし、全世界で3千6百万枚のレコードを売り、そしてまた無数の模倣バンドを生み出す。アウセニックはこのタイプの疑似民俗音楽バンドのいわば創始者となり、自らのバンドは、Slavko Avsenik und seinen Original Oberkrainern スラウコ・アウセニクとオリジナル・オーバークライナーの仲間たち、と称した。そして高齢に達した今は、Die Jungen Original Oberkrainer 若いオーバークライナーと称した若手を育てているらしい。

しかし、ドイツ語圏でヒットし、ドイツ語圏からみたスロヴェニアのイメージと言えばアウセニクがついて回るようになったものの、スロヴェニアでは格別好まれているわけでもなさそうだ。(とは言っても、リュブリャーナから山岳地方に向かうバスの中など、いたるところで耳にするような気がする。)

こちらの詳細なファンサイトもドイツのもの。ネットラジオ放送は休止中だが、断片的なメドレー風のmp3ファイルを聴くこともできる。
Krainer-music.com

Slavko Avsenik の公式ホームページ。スロヴェニア語、ドイツ語、英語、イタリア語、クロアチア語で作られたこのサイトは、確かなエスタブリッシュメントであることをうかがわせる。ベグニェ村のアウセニクの店が、5つの客室を備えた食堂旅館であることも分かる。

この手の音楽、ヨーロッパ・アルプス東部やバイエルンやオーストリアでよく耳にしていたが、こういう、ごく近い浅い歴史をもったもので、かつ「起源」がスロヴェニアの北西部にあるということは、僕は最近まで知らなかった。やはり「伝統」というのは「創られる」(ホブズボウム)ものなんですね。

ところで、アウセニクが成功したことによる問題の一つは、(Dumont 社のガイドブック、"Slowenien mit Triest" (Friedrich Köthe, Daniela Schetar) の著者たちの言うところによれば)この他のスロヴェニアの「伝統音楽」が、アウセニク流のポルカやワルツが席巻するなかで、忘れられ、消えて行きかねない事態が生み出されたことだという。(スロヴェニアの音楽 2 に続く…予定。)

    
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このページは、takuyaがoktober 6, 2005 12:17 AMに書いたブログ記事です。

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