スロヴェニアのビールと言えば、ずっと以前から赤いやつと緑色のやつだった(ちょうど補色になっているところが面白い)。それぞれ Union ウニオン、Laško ラシュコという。ワインのような選択肢はない。小さな生産者が減少傾向とはいえまだまだ健在で各地の地ビールこそがビールであるドイツとは違って、スロヴェニアは早くからこの二つに絞られていた。まあそもそもが四国ほどの面積の国だし、それに小さな生産者も東部にいくらかはあるらしい。
写真はすべて0.5L。缶はどちらも179SIT(ちょうど100円ぐらいか)、瓶はUNIONが159SIT、Laško lahko (ライト)が135SIT。
ウニオンはリュブリャーナの会社で、リュブリャーナのシンボルであるドラゴン zmaj がトレードマーク、ラシュコはスロヴェニア東部の会社だけれども、西部にあるトリグラウ山の伝説のアルプスヤギ(ibex アイベックス)、ズラトロクがトレードマーク。ウニオンとラシュコの支持者はずっとほとんど五分と五分だった。
ドタバタは、2001年の秋、ベルギーの大手、Interbrew が Union 買収の意志を表明したところから始まった。Interbrew は世界第二のビール会社なんだそうだ。ところがそのほんの数ヶ月前、Laško はスロヴェニアのビール製造業の統合強化をめざして、Union 株の24.99パーセントを取得していた。Union は Interbrew の意思表示のほうを喜び、戦略的提携を結ぶ契約にサインする。そして Interbrew は Union 株の20.99パーセントを取得。株式公開買い付けを公表。ラシュコもただちに公開買い付けを発表。50.1パーセント獲得を目指してどちらも強力なロビー活動を開始する。
当然、'national interest' をめぐる議論が引き起こされる。一方の支持者はスロヴェニアの飲料産業はスロヴェニアの企業のリーダーシップのもとで統合強化されるべきだと主張する。他方は、外国企業が所有することによって競争が強まり、消費者のメリットになると主張する。
2001年11月の時点でラシュコは48パーセント、インタブルーは42パーセントを獲得していた。
スロヴェニアのEU加盟を目の前にした時期のことで、政治的な脅迫に類する動きもあったようである。曰く、スロヴェニアの競争慣行はEUの基準にもとる...。するとラシュコ側は、株主たちはよりよい買い手に売っているだけだ、と反論する。ラシュコが優位に立ったこの時点で、インタブルーは、ラシュコが非合法な手段でウニオン株を取得しているとして、争いは法廷に持ち込まれる。長い係争の後、スロヴェニア競争保護局(公取委)は、2003年半ばに、ラシュコによる合併は反トラスト法に抵触しないという裁定を出す。
この裁定は、ラシュコがウニオン株の50.1パーセントを獲得した時点で初めて発効することになっていた。しかし、2005年2月に、往年のライバル、ラシュコとウニオンが過去のすべての対立に決着をつけるという協定を結んだことで、この条件はあっさり満たされてしまう。インタブルーはラシュコとスロヴェニア政府に対するすべての訴訟を取り下げる。
しかし公取委裁定には厳しい条件が付いていた。ラシュコはインタブルーに対して3百40万ユーロの補償金を支払った上、インタブルーの持っていたウニオン株を7千万あまりで買い取る。こうしてラシュコはウニオン株の95.17パーセントを持つことになったのだが、ラシュコが議決権を完全行使するには、Union Grand の商標と、Union pivo lager というブランドの使用権、Union lager を生産するライセンスを、売却しなければならない、というのが裁定の条件には含まれていた。Union ブランドを取得した者がこの名前でビールを生産販売しようとする場合には、ボトリング工場の一つの利用を認め、原材料の供給や販売網、人員に関しても、新業者に有利な条件で最低三年間は協力しなければならない。それだけでなく、これまでラシュコの子会社だったミネラルウオーターのラデンスカ Radenska や清涼飲料のオダ Oda ブランドに関しても、Union ブランドと同様の措置をとらなければならない。
Union ブランドと Laško ブランドは、今のところそのまま並んで売られている。
この買収合戦で財政的に疲れ果てたラシュコを、とどのつまりは改めて Interbrew かどこか、外資がまとめて吸収してしまうのではないかという憶測もある。2004年度のラデンスカを含むラシュコの売り上げ収入は前年度に比べて13パーセント減少し、利益は40パーセントも落ち込んでいるという。しかもここにはウニオン部分の数字は含まれていない。そこまで含めるとラシュコは完全な赤字。しかしこれがそのまま下り坂に続いてまとめて買い叩かれるのか、合併が効果をあらわすまでの一時的な落ち込みなのかは、まだ分からない。今後のクロアチアやボスニア、セルビアへの展開戦略が、一つの鍵になりそうだという。
以上はほとんどが、月間英字紙 The Slovenia Times 8月号の受け売り。
ワインだってあまりよく分かっていないけれど、僕はとくにビールに疎くて、いや、飲まないわけじゃない、飲むけれども「違いが分かる男」(古いな、古すぎる...違いが分かっていた方々はすでに多くが鬼籍に入っておられるではないか)ではなくて、日本国内各社のビールの違いすらピンと来ない。さすがに日本の酒税対策の安価な偽ビールとビールの違いぐらいは分かるつもりだけれども。そんなものだから、ウニオンとラシュコの違いだってあまりよく分からない。ものすごく個性の強いビールを少数生産するのもありの「地ビール」と違って、これくらいの「大手」になってしまうと、クセのない、ユニバーサルな仕上げに自ずとなってきてしまう、ということもあるかもしれませんね。
追記:The Case of the Vanishing Intoxicants の写真が面白い。警官たちの前にずらっとならんだズラトロク (Laško) ビールの空き瓶。 コメントに、警官たちが「正しい」ビールを選んでいてエラい、というのがあって、それに対して、今はどっちみち同じポケットに入るじゃねーか、というツッコミが付いている。ラシュコがウニオンを買収したことを言っているんですね。



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