avgust 2005アーカイブ

ダニ

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ヨーロッパには厄介なダニがいる。いや、何かの比喩ではなくて、虫そのもののことだ。

    
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初めてボヒンスカ・ビストリツァに、そしてそこのペンション・Tに漂着したときのことを、以前のエントリで書いた。

    
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ペーター・ハントケの大作『無人の入り江の一年』には、さまざまな旅とさまざまな土地が登場する。ピランもその一つ。語り手の息子ヴァレンティンが訪れた2月のピランについてはこんな具合だ:

    
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今はリュブリャーナの City Hotel というホテルにいる。ここは部屋から無線LANが使えるが、有料だ。

    
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僕のスロヴェニアとのかかわりは、ペーター・ハントケからだ、と以前に書いたけれども、それ以外にも二三の偶然とそこから発した細い糸が絡み合っている。

Reiter


リュブリャーナの街で見かけた騎馬警官

    
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ピランはアドリア海の奥に突き出した岬に造られた街。三方を海に囲まれた古い町並みはぎっしりと建て込んで、大波や冷たい北風 (burja) から守りあうように身を寄せあっている。

    
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定評あるオーストラリアの旅行ガイド出版社Lonly Planet のサイトのスロヴェニア紹介文に、こうある。

No longer the undiscovered, bargain gem that it was, Slovenia still remains a wonderful antidote to much of Europe's crowds and high prices.

実際、よそ者にとっては残念なことだけれど、もはやスロヴェニアも知る人ぞ知る (undiscovered) お買い得な掘り出し物 (bargain gem) という感じではなくなっている。本当に、豊かになっているなあという気がする。僕が初めてまともにスロヴェニアを訪れたのは、独立後間もない頃だったから、スロヴェニアはそれまでのセルビアなど旧ユーゴ諸地域への販路も失い、西欧との結びつきは形成途上で、貧しかった。お気楽なよそ者にとってはそれが魅力だったのだが…。

    
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ヴィザ

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今回、比較的長期の滞在なのに、実はヴィザを取ってきていない。
もちろん、出発前に、そのことで赤坂のスロヴェニア大使館と電話やメールでやり取りしていたのだが...。

Potni_list

    
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数日前からリュブリャーナに来ている。ひとまずはホテル暮らし。
この blog、Mac ネタなど一部のもの以外は、時間をおいたことしか書かないようにしていたので、その日その日の「日記」のようなものを書くことには躊躇いがあったのだが、「リュブリャーナ日記」のカテゴリも設けることにした。もちろんtsujigakuさんのチューリヒ日記2004/05の衣鉢を継ぐ、というか不肖のエピゴーネン(エピゴーネンは不肖に決まっているが)であることを意識している。

ウィーンで乗り継いで、ブルニク空港に着いたのは夜の10時過ぎ。空港から乗ったタクシーの窓から、無数の星が見えた(もっとも、たとえば東京から80キロの非東京国際空港周辺も星が明るそうだが)。

日本で脂汗をだらだら流していた数日前とは打って変わって、肌寒いぐらいだ。今日はおまけに雨で、最高気温21度、最低気温7度の予報。ちょっと寒すぎる気もするけれど、日本の夏に比べれば、こちらの乾いた空気はやっぱりいい。

    
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キノコ

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キノコのことを、あまりよく知らない。

先日、近くの低い山に行ったら、ちょうど気候と時期がぴったりだったのだろう、実にさまざまなキノコが生えていてびっくりした。大きなもの、小さなもの、白いもの、茶色いもの、赤いもの、近ごろ店に出るようになったヤマブシタケらしきものも、あれはアミガサタケだったのかなというものもあった。でも目的は別にあったので、ほとんど素通り。

オーストリア出身のペーター・ハントケという作家は相当なキノコ好きでもあって、『反復』"Die Wiederholung" (1986) でもケルンテンの林でキノコを採る話が出て来たし、1000ページ超の「不作法なまでにぶ厚い」作品、『無人の入り江の一年』"Mein Jahr in der Niemandsbucht" (1994) でも、その相当なページ数にわたって、主人公はパリ近郊の森林でキノコ狩りに興じている。1999年の小品、『森のルーシー』 "Lucie im Wald mit den Dingsda" (タイトルは Lucy in the Sky のもじり)になると、ハントケ自身に重なるなんだか情けない父親と、刑事である母親との間に生まれたルーシーという10歳の女の子が、初めは父親のキノコ狂いを嫌っていながらしだいに染まっていき、最後はなぜか投獄されてしまった父親をキノコのおかげで救い出してハッピーエンドになるという、かなり強引なメルヘン。作家自身の手になる10葉ほどのイラストが美しい。

ドイツ人がキノコが好き、キノコ狩りが好き、ということはよく言われているし、どこの町の市場にも、おいしそうなキノコが色とりどりの野菜や果物と並んで売られている。ドイツでは、薬剤師になるにはキノコに関する知識が必須で、人々が、自分で採ってきたキノコを薬局に持っていくと、食べられるかどうか鑑定してもらえる、という話も話としては知っている。薬剤師がみてくれるとは言っても、毎年毒キノコで中毒する人も多いらしい。(ドイツに限らず、フランスとかチェコとか、ヨーロッパの多くの国でこのあたりの事情は共通しているようだ)。でもいくらかドイツで生活したことがあるとは言っても、たかだか1、2年、一度は学生寮住まい、一度は家族とともにアパート住まいをしていただけの僕は、ドイツ人たちのそういう「生活」をあまりよく知らない(南仏、スペイン、スロヴェニアで野生のハーブを探した話やクロアチアで野生のアスパラガスを採りに行った話は以前のエントリに書いたけれど、キノコは未知の世界)。シーズンにホームステイでもすれば、あるいはもう少し腰の据わった家族同士の付き合いなぞすれば違うのだろうし、とにかく一度ドイツのキノコ狩り、やってみたいと思っているのだが。日本でもやればよさそうなものだが、これがなかなか難しい。

日本では一般人(その定義は問題だが)が自分でキノコ採りに行くことはあまりない。ごく少数、ほんとうに好きな人たち、ほんとうによく知っている人たちがいるだけだ、と言って間違いではないだろう。街角の薬局で確認できるわけでもないから、食べられるか否か判定する自信のない人たちにとっては、スーパーで売られているわずかな品種が食用で、山や町や公園で見かけるキノコは無意識のうちにすべて「毒キノコ」だと思ってしまう(思うことにしてしまう)のも無理はない。 「きのこ専門の画家」の小林路子は、こんな話を書いている。東京のとある公園の木の切り株に出ていたエノキタケをスケッチしていると、小学生の女の子と母親が通りかかる。女の子が叫ぶ。「お母さん! きのこがあるよ! ナメコみたいなきのこだよ!」母親は子どもの手をぐっと引いて言う。「毒きのこよ! 触るんじゃないの!」...エノキタケだってのに。小学校低学年とおぼしき女の子の「ナメコみたい」のほうが限りなく正解に近いのだ。この母親の視線はいったい何を見ていると言えるのか。この問題をキノコに限らず僕らがものを見るときの姿勢一般に敷延すれば、お手軽にとても教訓的な結論が得られるけれど、それはここで語るまでもあるまい。

この本の著書あとがきで、小林さんは自分の作品をイギリスの植物園に寄贈した話に関して書いている。「日本は、量、種類ともに、きのこに恵まれた国である。だが、日本の大学には菌類専門の講座もないし、それに、私の絵を大事にとっておいてくれそうな博物館もない。」独自色を出すことに汲々としていながら周囲の後追いしかしていない地方私大あたり、充実した菌類学の学科でも立ち上げてはいかがかとも思う。ロビー活動でもやって法案を通し、卒業生を全国の薬局に送り込む...。もっとも、文系中心で来たところは難しいかもしれないし、何より既存の諸大学薬学部の反撃がすごそうだけれど。

それはともかく、ふと手に取ったその小林さんのこの本、とっても面白かった。


"森のきのこ採り―すぐそばにあるアナザー・ワールド" (小林 路子)

ふとしたきっかけでキノコにのめりこみ、描くキノコ(食用・有毒を問わず)を求めていたるところに出かけていく話が、四季に分けて語られていく。本文のわけの分からない(自己イメージなのだろう)クマちゃんの出てくるモノクロの絵もいいけれど、栞のように投げ込まれたカードのタマゴタケとカバーの折り返しのエノキタケだけがカラーイラストで、それがはっとするような美しさを放っている(こんどこの人のきのこの画集も探してみよう)。何より話の中身が面白い。僕もせめて案外身近にあってかつ売られているものとは全然違うという野生のエノキタケぐらい(もちろん食えるものがいいのだ)、見つけ/見分けられるようになりたい...。

    
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2003年、ドイツ、135分。Margarethe von Trotta 監督。

ニューヨークに住むルート・ヴァインシュタインは、夫を失ったばかり。ことさらにユダヤ教の教義を守って、親族に30日間の喪を強いる。ルイスと結婚したいという娘ハンナの希望は撥ね付ける。なぜそこまでするのか、過去については黙して語らない母がくぐりぬけてきた時代を知るために、ハンナはベルリンに飛ぶ。そこで会った90歳のレーナ・フィッシャー、戦中、母の養母であった人物の口から、ようやくハンナは過去の事実を聞き出す。それは1943年2月のことだった...。

という枠物語形式で語られる第二次大戦中のドイツの物語。

スターリングラードでのドイツの大敗後の1943年2月、ベルリン。ユダヤ人の夫をもつ数百人の女性たちがローゼンシュトラーセ( Rosenstraße 薔薇通り)で大胆にもデモを行い、収容所に送られようとしている夫を返してくれ、と訴える。もともとこの通りにはユダヤ人コミュニティの本部があり、それを接収したナチは、そのままユダヤ人たちの仮収容所にしたのだった。さらに驚くべきことに、彼女らの訴えは成功を収める。夫たちは帰ってきたのだ。

この史実を舞台に、個々の登場人物はまったくフィクションとして創造することで、マルガレーテ・フォン・トロッタ監督・脚本の "Rosenstraße" は、この出来事を目に見える・分かりやすい (anschaulich) かたちで見せてくれる。

Rosenstraße

いくらかの批判や疑義もある。たとえば史実との関係については、ゲッベルスはこのローゼンシュトラーセのユダヤ人たちを(映画のように)どうこうできる立場にはなかったはずだ、とか。あるいはナチはあまりにナチらしく、プロイセン貴族(レーナの父親)はあまりにプロイセン貴族らしく、要するに紋切り型に描かれている、とか。あるいはまた枠物語仕立てにしたことによって、進行も人物の心理も無用に複雑になってしまっている、とか。尻馬に乗って、レーナの夫、ヴァイオリニストのファビアン (Martin Feifel) がヴァイオリンを弾く(フランクのヴァイオリンソナタ!)姿(特に右手)がまったくサマになっていない、とも付け加えておこうか。

しかしセットもカメラも巧みだし、キャストには名優を揃えているし。戦中のレーナを演じるカーチャ・リーマン Katja Riemann は、この映画でヴェネツィア映画祭の Coppa Volpi を獲得している。ハンナを演じるのはマリア・シュラーダー Maria Schrader。モーリツ・ブライプトロイ以上に、この人の多彩な役作り、演じ分けには感心する。『愛され作戦 Keiner liebt mich』のファニー・フィンク役、"Stille Nacht" のユリア役、『コマーシャル・マン』のヨハンナ役、『エーミールと探偵たち』のフンメル牧師役。『エーミール』でコミカルな役を演じていたシュラーダーとユルゲン・フォーゲル Jürgen Vogel が、"Rosenstraße" でも揃ってシリアスな役を演じているのを見比べるのも面白いかもしれない。

全体としてよくできているのは確かだし、またローゼンシュトラーセの出来事を目に見えるものにした功績も疑いえない(これを素材とした映画は先行作品があったようだが)。

映画を離れて、歴史的なローゼンシュトラーセについて言えば、Le Monde diplomatique の記事 Ces femmes courageuses de la Rosenstrasse で Dominique Vidal が書いているように、このローゼンシュトラーセの出来事は、まず、ナチ政権に対して受け身の姿勢をとり、「どうしようもなかったのだ」と言ってきた人々に対して、仮借のない疑問符を突きつける。さらに、この43年の出来事に限らぬ一般的な問題として、ナチ政権は、これまでの歴史研究で想定されてきた以上に、実は民衆を恐れていたのではないか、という問いを提起する。このことは、やはり Le Monde diplomatique で抜粋が紹介されている→日本語版) Götz Aly の近著 "Hitlers Volkstaat. Raub, Rassenkrieg und Nationaler Sozialismus" に言う、ナチスが国民の支持をいかに「金で買う」ことに腐心していた(ユダヤ人や占領国から収奪した富を「福利厚生」に回していた)かという指摘とも平仄が合う。

    
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