Shim-Kさんのところも、フェルデンクライスとか、太極拳とか、気功とか、いろいろ身体の調子を整えるために大変なようだ。たぶんあまり違わない年代なので、僕もけっこうガタがきていて、人ごとではないのだが、個人的にさらに音楽-楽器にからんだ関心が加わる。
楽器のなかでも、特異な構えを要求されるヴァイオリン。以前に呼吸の話をちょっと書いたけれども、腕を、指を、さらには全身を、どうコントロールするかというのはつよい関心をひく問題だ。
数年前に、「アレクサンダー・テクニーク」を称するバーバラ・コナブルの「音楽家ならだれでも知っておきたい『からだ』のこと」が出たとき、新鮮だった。
もちろん、ことは演奏全般に関わるのだけれども、ここであえて具体的な例を挙げておくと、たとえばブラームスのヴァイオリンソナタ第3番の1楽章冒頭のボウイングが、僕にとっては以前から問題だった。

コナブルがすでにたとえば腕の骨格について啓発してくれてはいた。手指の細かい関節は除いて、腕の関節は何ヶ所か。たいていの人は3ヶ所と答える。手首、ひじ、肩だ。しかしこれは誤り。正解は、4ヶ所。鎖骨も腕の一部であり、首のすぐ下の鎖骨がつながっているところも勘定に入れなければならない。このことを自覚しているかいないかで、弓元で上腕を使う際にちがってくる。
それはいい。でも上記のブラームスは、この認識だけでも何かが足りなかった。譜面で見られる通り、冒頭のこの主題は、一小節半、全音符の a2 から2小節めの c3 にいたるまで、長いワンボウ。p で sotto voce なのだけれども (ma)、espressivo。つまり、音量は弱めなのだけれども、説得力のある息の長い歌い方が要求される。もちろん、espressivo なのだから、やや駒よりにして、弓は立て気味にして毛を少し多めに弦に付けようとか、ヴィブラートはしっかりかけよう(d3 の4指では、1指は弦から離したほうがいいようだ。ただし八分音符の c3 に移ったら左手はただちに4指の緊張をゆるめて、よけいな力の抜けた適正なフレームに戻さないと c-b-c のイントネーションも音色も乱れる)とか、そのへんまでは思いつく。3小節め4小節めの、ブラームス特有の膨らましのある部分も、1小節のみの範囲で、弓圧や弓速や弦への接触点をコントロールすればいいので、それほど難しくない。だが、しょっぱなもしょっぱなのこの部分、p とはいえ、これだけの長さを(テンポ設定にもよるが)ひと弓でまかなって、萎縮したみたいな弾き方にならないようにするには、まだ何かが足りない。もちろん、ワンボウをあきらめて、2小節めの頭で弓を返してしまうという「反則技」もあるだろうが、それはここではやりたくない(27-28小節めや218-219小節めで同じ主題が ƒ で出てくるところ、p だけれども真ん中で ƒ にふくらんで前打音もはいる258-259小節めでは、もちろん弓を返してしまう)。
中学か高校の頃、オイストラフとリヒテルのLPでこの曲を聴くようになって気に入り、まもなく日本の女性奏者のリサイタルでも聴いたとき、この主題が異様にかぼそく聞こえて、あれっと思ったのだが、自分でやってみたら本当に難しい。それ以来、ここをどう弾けばいいのかは長年の謎だった。
最近、「みるみる演奏が楽になる5つのエクササイズ─ヴァイオリン体操 実技編」(なんともベタなタイトルだが)がさらに新たな認識を与えてくれた。コナブルと基盤は共通するものがあって、さらに突っ込んだ認識と身体感覚を与えてくれる。この本の中に、ボウイング動作にかかわる腕の構造のイメージトレーニングがある。腕の付け根がどこにあるかというイメージのしかたによって、ボウイングが変わってくるのだ。腕の付け根が肩にあるものとイメージしてボウイングを行った場合、腕の付け根が「壇中」(胸の中央)にあるものとイメージした場合、「丹田」(へその少し下)にあるものとイメージした場合などなどで、腕の感覚が変わってくる。どのイメージも使いようであって、「必要に応じて腕のイメージを自在に変えてボウイングができるようにしましょう」ということになる。上のブラームスの場合、腕が丹田から出てきているイメージが正解のようだ。まだ読んで知ったばかりで身に付くには到っていないのだけれど、一歩解決に踏み出したような気がする。



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