julij 2005アーカイブ

vintgar.jpg

スロヴェニアの観光地としては日本でも比較的よく知られたブレット湖 Bled の北方4キロほどのところに、ヴィントガル Vintgar の峡谷がある。狭く深い峡谷のことを、日本の登山用語でも英語でも、フランス語から来た単語で gorge (ゴルジュ=のど)という(ドイツ語なら Schlucht か Schlund、あるいは Klamm か)。ヴィントガルは際立ったゴルジュだ。

そのままならば徒渉したり泳いだり(しかも水温は非常に低く、流れは速い)断崖をへつったりの備えがなければ行けないようなところだが、木の桟道が整備されていて、気軽に訪れることができる。この桟道は、1893年にゴーリェ観光協会によって最初に設置され、今日にいたるまで整備維持されてきている。両端には小屋があって、管理のための入山料を取られる。(ブレットからすぐ近くであるにも拘らず、そもそもアクセスの困難だったこの峡谷は、ラドウナ川の水量が異常に少なかった年、1891年になって、当時のゴーリェの市長 Jakob Žumer ヤーコプ・ジューメルと、測量士で写真家の Benedikt Lergetporter が「発見」してその美しさに感嘆し、ただちに、多くの人々が訪れることができるよう、桟道の整備を開始したのだという。)

ガイドブック Lonely Planet Sloveniaの著者 Steve Fallon によれば、Vintgar は「もっとも手軽にもっとも満足の得られる日帰り遠足の行き先」で、これは言えてる。4月中旬から10月の午前8時から午後8時まで。それ以外の時期は閉鎖される。峡谷の両端にある小屋では飲み物や軽食が手に入る。峡谷の入り口から出口まで、ゆっくり歩いても1時間程度。桟道の板の上を歩くのが大部分だから、比較的軽装で済む。

ブレットからは徒歩か、バスで Podhom ポドホムまで。バスは、6月末から9月中旬まで、Alpetour というバス会社がブレットのバス駅から毎朝9時半に走らせている。歩くなら、ブレットのバス駅から北西に Prešernova ulica プレシェレン通りを行き、Partizanska cesta パルチザン通りに入って北に向かい、それから牧草地の中をまっすぐ北西に向かう Cesta v Vintgar ヴィントガル通りを歩く。すると Podhom の集落に着くので、そこから道標に従い西に1.5キロ、坂を登って下ると峡谷の入り口に着く。あるいは馬車をチャーターすることもできる。ポドホムからヴィントガルへの最後の区間、かなりの急坂の部分、御者は馬車から降り、馬の負担を軽くしてやっている。
kutsche.jpg

興味深いのはこのゴルジュの形成史。Peter Skoberne "Triglav National Park" Ljubljana, 1991 によれば、最後から二番目の氷河期に、ボヒン氷河が Radovna ラドウナ川の流れを堰き止めて湖にした。それまで、ラドウナ川はブレットでサヴァ川に注ぎ込んでいたのだが、その道を塞がれ、 Hom ホム山 (834m) と Poljana ポリャーナの間の峠からサヴァ・ドリンカ川に向かって流れ出す。高度差があったため、長さ1.6 キロにおよぶ峡谷が比較的短期間に形成された。水流が掘り込んでいった両岸の断崖はほとんど垂直で、狭く深い谷ができた。断崖は最大で高さ300mにおよぶ。そして峡谷の出口は落差13メートルの Šum シューム滝となった。スロヴェニアで、川の途中に滝があるのは珍しい(断崖の途中から吹き出す滝のほうがありふれている)。滝の直上を、イェッセニツェからボヒンを経てノヴァ・ゴリツァまで結ぶ鉄道の、古い石造りの橋がまたいでいる。

ラドウナ川にはマスやニジマスや北欧原産で放流されているヒメマスが多く、釣り客もよく訪れるようだが、峡谷内は入漁禁止。峡谷が少し広がったところで漁をしているのが(『スタンダード仏和』の訳語によれば)川烏という鳥。もっとも、大きくて20センチぐらいの小鳥だから、マスを捉えるわけではない。2000mぐらいまでの山地の急流に住み、フランス語で cincle plongeur という名の通り、水中にダイブ (plonger) して小動物や魚の卵などを食べる。ドイツ語で Wasseramsel (水ツグミ)。フランス語でもほぼそれと同じ merle d'eau という呼び名もある(英語でも似たような water ouzel という呼び名があるようだ。もう少し広義では dipper)。スロヴェニア語では...知らない。ダイビングも含めて、とても動きがすばやくてよい写真が撮れなかったので、この画像は Der Brockhaus in Text und Bild 2004 から拝借。お食事中のようだ。
wasseramsel.jpg
やっぱり全身が見えないと、ということで、こちらは Les Oiseaux des forêts et des montagnes というヨーロッパの山野の鳥のフランス製CD-ROM図鑑(惜しいことに Mac では Classic 環境でしか動かないが、たいへんよくできている)から。こちらも何かくわえている。
cincle.jpg

シューム滝で峡谷が終わり、前方の視界が開けてくるあたり、両岸の斜面にV字に枠どられて、ずっと向こうにオーストリア国境のカラヴァンケ山脈の、おそらく Stol ストウ山 (2236m) が白く輝いている。

峡谷の終端からは、往路を戻るのが普通だが、北に小さな峠を越えて Blejska Dobrava の鉄道駅に出ることもできるし、右に、南西方向の山道をたどり、Hom 山の東側、小さな聖カタリナ教会堂のある峠(634m、眺めがよい)を越えて、ブレット方向に戻ることもできる。また、カタリナ教会のところから尾根伝いに Hom を越え、出発点の Vintgar 入り口に戻ることもできるようだ。

    
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『一家に一つ、魔法使い』 Der Fakir (2004年、85分)

こども向けのホラー・コメディ。(上の日本語タイトルは適当に付けた仮のもの。)
父親が亡くなって、二卵性双生児のエマとトムは、母親とともに、何十年も放置されていた古い屋敷に引っ越す。ここには絶対何かが「出る」と確信したエマは、実際、地下室で、ボールペンに閉じこめられた幽霊というか魔法使いというか何というか、ロンバルドという男を発見する。ロンバルドは、50年の間、そこに閉じこめられていたのだった。ボールペンから出してもらったロンバルドは早速力を発揮しなければならない。この屋敷に盗品のダイヤを隠した脱獄囚二人が闖入してきたからだ。ロンバルドの力を借りて(?)、子供たちは二人の男を見事撃退。それどころかおまけに...。

ドイツ製のこの手のコメディというのはあまり日本には知られていない。このへんは紹介されてもいいのではないだろうか。大ヒットにはならないだろうけれど。

それにしても、ロンバルドを演じるモーリツ・ブライプトロイのはまっていること。『ラン・ローラ・ラン』、『ソリーノ』、『七月』、『エス』などなど、まるで違った役を実に器用にこなすものだ。

原作の少年少女向け小説は

Ein Fakir für alle Fälle



『弟が犬になっちゃった』 Mein Bruder ist ein Hund (2004年、97分)

Der Fakir と一緒にドイツ版 DVD を取り寄せて観てから気付いたのだが、「ドイツ年」のからみで6月に東京で公開されていて、テレビの動物番組でも、「主演」の犬が訓練士と一緒に紹介されていた。(訓練士は、映画の中でもキャンディー・ショップの店員の役で一瞬出演している。)

マリエッタは犬が飼いたくて仕方がない。けれど、親は許してくれない。十歳の誕生日にもらったアフリカの「魔法の石」。魔法なんて効くわけないじゃない。でも両親が旅行で不在の間に、ほんの試しに「魔法の石」に願いをかけてみる。「ベク・ベク・ヴェズ・クサラート!」バカな弟なんかより、犬が欲しい! すると本当にかわいい犬が出現! しかしこの犬、弟トビアスの好物のキャラメルキャンディーをぱくぱく食べるし、弟の大好きだったソファーのクッションにちょこんと座って弟の大好きだったテレビ番組を見ている。弟が変身しちゃったんだ! さらにこの犬、ふとしたきっかけでCMスターになってしまう。マリエッタは必死で弟を元の姿に戻そうとするが、弟の方は犬としての生活がまんざらでもなく、人間に戻ることを拒む......。ドイツ年サイトの解説によれば、「『競走豚ルディー』など、動物を使ったファミリー・ムーヴィーの第一人者であるペーター・ティムによる、<家族の絆>をテーマとする子供向け映画の秀作。」だそうだ。

弟の Hans Laurin Beyerling ? が、彼が変身するツヴェルクシュナウツァーによく似ていて(?)、その点、なんだか説得力がある。

フィルム・タイ・インの、これはおそらくノヴェライズ本。

    
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前のペヒトランカに関するエントリに、ここのハーブ名各国語辞典がすごい、と書いたけれど、フローラとフォーナの名前の日本語表記というのは結構問題だ。

英文学の古い翻訳で、マンネンロウというのがよく出てくる。これがローズマリーのことだと知ったときの衝撃は大きかった。大昔の大学の英語だかドイツ語だかの先生で、植物の名前が出てくると、全部「トネリコ」にしてしまった豪傑(というか無知)がいた、というようなエピソードもかつてどこかで誰かが書いていたのを読んだ記憶がある。

ドイツ語の Salbei ザルバイ。たしかに「サルビア」でもあるんだけれど、どうもほとんどの場合日本で今では英語式に言うハーブの「セージ」のことのようだ。しかし独和辞典にはそう書いてないから、間違われることが多い。今の日本語でセージはセージでしょう。ちょっと気の利いたスーパーならどこでもそういう名前で売っているのだから。

シンチンゲル、南原、山本『新現代独和』(三修社)はもはや古典だが、ここに言う「サルビア、ヒゴロモソウ(とくに葉は薬用)」の「ヒゴロモソウ」って、セージのことなんだろうか。確かに料理以外に「薬用」にもなるだろうけど。(追記:広辞苑によればヒゴロモソウは「サルビア」の別称だそうだ。)
『フロイデ独和辞典』(白水社)も、もともとあまり期待できない『新アポロン独和辞典』(同学社)も、ドイツ語の新語は積極的に取り入れていることがウリらしい日本のドイツ語学会のドンの書いた『アクセス独和辞典』(三修社)も、けっこう頼りにしている小学館の『独和〈大〉辞典』も、すべてあっけらかんと素っ気なく「サルビア」。と思ったら、『クラウン独和辞典 第2版』(三省堂)だけは、「サルビア、セージ」としてあった(初版電子ブック版を確認したら「サルビア」のみだった)。濱川先生のクラウンはエラい。

最近、ヴァルター・メアス『キャプテン・ブルーベアの13と1/2の人生』を平野卿子さんの巧みな日本語訳(河出書房新社)で読んでいて、この「サルビア」が出てきてしまって、あらら、と思ったのだった。

実は同じミスを、僕自身、大昔にやった翻訳でやっている。

まあこれだけあらゆる独和に「サルビア!」と合唱されると、多くの翻訳者がそうなんだと思ってしまうのも無理もない。独和辞典の編者たちの責任だよね。もっとも、もちろん「セージ」という〈日本語〉が成立したのがたかだかここ十年ぐらいだという事情が一番大きいのだけれど、ことはドイツの奇妙にねじれた食事情にも絡んでいるのではないか。ドイツ語圏の食事情がある意味で貧しいのはよく知られているけれど、これはおそらく「伝統料理」にあまりハーブ類が出てこないことが大きい。フランスやイタリアやスロヴェニアではハーブ類を巧みに使う料理が多いけれど、そういうのはドイツ語圏にとってはどこか外国のもの、特別なものというイメージがある。古くからドイツで使われているハーブと言えば、クミン (Kümmel) の種とか、ピクルスに使うディル (Dill) ぐらいだろうか。今やドイツにもハーブ類をふんだんに使ったレシピをたくさん載せている料理本や料理雑誌はものすごく多いのだけれど、いったいこれどこのドイツ人が作るの?という印象がある。なんだか、陸続きなのに、あるいは陸続きだからこそ、近隣諸国のハーブの使い方を含めたそういう美味しい料理法を取り入れてしまうと、まるでアイデンティティが崩壊してしまうみたいなのだ。ラカン風に言えば一種の「去勢の論理」。

一昨年の夏、マインツのライン河畔のレストラン Rheingoldterrasse Café で食べたセージを効かせた豚肉料理はうまかった。でもそういうのはイタリア料理ということになっているわけ。

そういう状況だから、独和辞典編集者たちが、特に個人的にハーブ類に関心を持っていない場合、その関連の訳語選定や記述が素っ気無くなるのは必然なのだ。

ちなみに、スロヴェニア語では žajbelj ジャイベル。いずれにせよラテン語の salvus が起源らしいが、ドイツ語とは微妙に音韻が交替しているのが面白い。

    
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GreekTranscoder

古い文字コード・古いフォントで書かれたギリシャ語をユニコードに変換するソフト。(逆の変換も可)
VB5 を利用した MS Word のテンプレートなので、Microsoft Word 2004 が必要(それ以前の Word はユニコードを扱えない)。Word は文字コードを判別できないが、利用されているフォント名にもとづく変換をさせることはできるので、それを半自動化したということらしい。

さまざまな文字コードで書かれたプラトンの『プロタゴラス』冒頭部分のファイルが、テスト用にいっしょに配布されている。

Mac 上で、Visual Basic のプログラミングをするのはかったるいので、ゆくゆくは Real Basic で書き直して、(Word テンプレートではなく)独立したアプリにするつもりだと作者は言っている。Real Basic ベースのソフトも文字コードの扱いはダメ、という印象だったが、最近は違うのだろうか。

    
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知床が世界自然遺産に指定されて、早速国内某エアラインが新聞に大きな観光広告を打っていたりした。保護のためのはたらきと、指定されたがゆえの訪問客の増加による破壊へのドライブとのあいだで、せめぎ合いが起きていくことだろう。

奇妙なことに、今回同様に世界遺産登録された他所の土地については、触れている日本語の記事が少ない。(と思ったらこれを書いた翌朝になって Asahi.com が掲載していた。2005.07.17., 17:50 追記。)
このブログのメインページにRSSを引いている RTV Slovenija の記事で気がついたのだが、モスタルも世界遺産に指定された。
RTV Slovenija - Novice - Okolje - Mostar odslej pod okriljem Unesca

ボスニア・ヘルツェゴヴィナの古い街モスタル。街の中央を流れるネレトヴァ川に、16世紀に、高度な技術によって架けられたアーチ橋は、この前の争いの象徴の役割も担わされ、破壊され、そして復旧された。

かつてのユーゴスラヴィアが崩壊する直前にドブロヴニクに行った話は前のエントリに書いたが、モスタルには行ったことがない。モスタルについてはここの記事がよくまとまっている。行き方はこの記事にわりあい詳しい。今度機会があったら訪れてみよう。

この地がユネスコの「保護」下に置かれるということには、ずっと大きな意味があるように思える。

    
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ドイツの大学に入学試験はない。ギムナジウム(=高校)の卒業試験(アビトゥーア)=大学入学資格試験であって、それに合格しさえすれば、誰でも、どこの大学にでも、原則、入れる。ヨーロッパ諸国の大学は、どこもおおよそ似たようなシステムであるらしい。Abitur にあたるのは、たとえばフランスではバカロレア。これは学生にとってもメリットが大きそうだが、大学関係者としては特にうらやましいシステムだ。膨大な入試業務の負担を免れ、本来の教育や研究に注力できるのだから。日本の「センター試験」というのは、その失敗した類似品だと言える。

それはともかく、このシステムは、ヨーロッパ全体でほぼ同じとはいえ、外国人学生の受け入れに関しては、各国で微妙に違っていたようだ。
それで、EU裁判所が、オーストリアに対し、自国の学生と同条件で外国人学生を受け入れよという勧告を出した。
Österreich muss Unis für Ausländer stärker öffnen | tagesschau.de

オーストリアは、外国人には、出身地の大学の学籍がないと、国内の大学で学ぶ資格を認めなかった。つまりたとえばドイツ人学生は、アビトゥーアは通っていても、いったんドイツの大学に籍を置かなければ、オーストリアの大学で学ぶことはできなかった。

日本人学生の場合は、日本に高校卒業試験=大学入学資格試験というのがないため、日本でとにかくどこかの大学に入りさえすれば、アビトゥーアを取ったものと見なされ、たとえばドイツではあとドイツ語試験に通りさえすれば、あちらの大学に入ることができる。つまり(高校まで日本で過ごした)日本人があちらに行く場合、どのみちなんらかの大学に入ったことをもって入学資格に代えるのだから、関係ないのだが、ドイツでは、アビトゥーアを取りさえすれば大学に入れるとは言え、一部の人気学科(法学、心理学、医学など)にはNumerus claususと呼ばれる定員制限があり、一応アビトゥーアを取っても、成績如何では順番待ちになる。つまり入学資格は持ちながら、大学に入っていない人たちがいるわけだ。そしてオーストリアの、本国の大学に籍を持っていなければ外国人の留学を認めないというシステムは、そういう人たちにとっての障害になるのだった。

もし今回の勧告に従えば、外国の、とくに言語障壁のないドイツの学生が、本国の Numerus clausus を避けて、対応するオーストリアの大学の諸学科にどっと入ってくるのではないか、とオーストリアは戦々恐々としている、ということらしい。

    
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また Mac 関連スイスネタ。

MacTechNews.de - News Tag und Nachtによれば、チューリヒの一等地 (Top-Adresse) に Apple Store が計画されているという。正確な場所も、時期も明らかにされていないが、年内ではないとのこと。

Apple Retail スイス株式会社なんてのがこの6月にできたんですね。

    
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kimura.jpg木村元彦『終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ』

コソヴォ紛争は「終わった」ことにされているが、終わったどころではないし、NATOによる介入こそが事態を悪化させ、いまなおその後遺症が続いていることはさまざまな形で明らかになってきている。

だがそれはヨーロッパの連中は認めたくないことだし、日本の連中は無関心で、どちらでもいいと思っている。

事態をきちんと捉えようと思ったら、木村元彦さんのこの仕事は、第一に参照すべき書物の一つに数え上げなければならないだろう。自らの身を数々の危険に晒しながら、ほんとうの「現地」で確かめながら書かれた言葉。


しかし、瑣末なようだけれども指摘しないわけにはいかないことが一点。巻末に、かつて PLAYBOY 誌に掲載された木村さんのペーター・ハントケとの遭遇の記録が改めて収録されている。NATOの空爆に初めから強く反対し、ヨーロッパ中からバッシングに遭っていたハントケとの。木村さんがそういうハントケに関心を抱いたのは当然のことだし、また邂逅が実現したのも、読者としても幸福なことだと思う。しかし残念ながらこの中の、ハントケがクラーゲンフルトやザルツブルクの大学からの名誉学位を「当然」断ったという記述は事実と180度異なる。アカデミズムを権威権力に見立てたうえで、反権力の方向から筆がすべったのだろう。しかしことはそう単純ではない。うかつにあるいは意図的に流される言葉の多くとはちがって、事実というものが込み入ったものであることは、木村さんご自身がよく知っておられるはずなのに、たとえばミロシェヴィチさえ権力=悪玉と名指せばあとはどうでもいいという頽廃と、構造としてはほとんど同型のもの言いになってしまっている。

ハントケはどちらの学位も受諾している。それぞれの機会に語られた言葉を纏めた小冊子も出ている。
Peter Handke, Adolf Haslinger, Einige Anmerkungen zum Da- und zum Dort-Sein
Peter Handke, Klaus Amann, Wut und Geheimnis
上がザルツブルクの、下がクラーゲンフルトの記録。ヨーロッパ中から叩かれていたハントケに対してあえて名誉学位を与えるという選択の政治的な含意は考えない訳にはいかないはずだし、少なくともクラーゲンフルトに関しては、もう一つの問題が絡んでくる。ハントケがクラーゲンフルト大学で行った実に不思議な記念講演は、ほとんどケルンテンのスロヴェニア系作家の紹介で埋められているのだ。つまり公式にドイツ語スロヴェニア語二言語地域であるはずのケルンテンにおける、スロヴェニア系のあいも変わらぬ弱い地位という問題が根底にある。ハイダーのいるクラーゲンフルトでこういうことを語る意味をちょっと考えてみればいい。そしてかの地でこういうハントケに学位をやることの意味をちょっと考えてみればいい。(ハントケは、フロリヤン・リプシュなど不当に冷遇されていたケルンテンのスロヴェニア語作家の作品をドイツ語に移し紹介するという仕事も、かなり以前からやっている。)

PLAYBOY 誌掲載後、木村さんとハントケの媒介者である元吉瑞枝さんから訂正の必要がある旨連絡なさったように伺っていたのだが、そのまま再掲されてしまった。ボスニアからセルビア、コソヴォに到るさまざまな戦争については、ハントケのテクストと並んで、木村さんの仕事を前提として考えてみるべきだと思っている僕にとってはとても残念なことだ。たぶん、「アカデミズム」という括りで大学や大学周辺にいる人間を眺めるのをやめたほうがいいのだと思う。単純に、いろんなのがいる、というだけのことなのだから。「ジャーナリスト」にもいろいろなのがいるのと同じように。

いや、まずもって僕自身を戒めるべきだろう。スロヴェニアには繰り返し行っているし、ハントケの発言には注意を払っているが、コソヴォはもとよりセルビアにも行ったことがない。いまの僕にとって行かなければ「いけない」ということはないが、行っていないのにセルビアについて何かを語らざるを得なくなるときには、木村元彦を読まなければいけないということは当然の前提として、その上でさらに十分心しなければならないだろう。

    
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いや、スロヴェニアでインスタントラーメンが売られていることは意外でも何でもない。東南アジアあたりで生産された日本のメーカーのライセンス品?はかなり以前からヨーロッパ各国で入手可能だった。

ただたんに、このブログで取り上げられていたのがちょっと面白かった。
The Glory of Carniola: Master of Translation!

スロヴェニア在住アメリカ人のブログのようだが、この項目は、ラーメンのパッケージに各国語で書かれた調理法説明の中で、他の諸語では水500 ml となっているのに、スロヴェニア語だけ1Lになっているということで、画像も掲載されている。お湯の量を倍にしてしまったら、それは薄く不味くなってしまうだろう。

DAMAE RAMEN とは、おそらく「出前」なのだろう。「出前一丁」か。たぶん「ダマエ」と発音されているはずだ。

その下に、RAMEN とは何物なのかを説明しているのだろう、 Japonska juha z rezanci ヌードル入りの日本のスープ、と書かれている。もとのブログの著者は気に留めていないが、これが問題の核心かもしれない。スロヴェニアの人々にとってはそれが分かりやすいのだろうけれど、なんだか主従が逆だ。細い、あるいは細かいスープ用パスタの入ったブイヨン系のスープはスロヴェニアでもとても美味しいのだが、それと同類と捉えられているのか。たしかに、お湯の量を倍にしたら、完全に「ヌードル入りのスープ」になってしまうかもしれない。だからこそ、スロヴェニア語への訳者は1リットルこそが正しいのだと思ったのかもしれない。
「スープに入ったヌードル」と書いていればよかったのか。Japonski rezanci z juho... これではパスタに別皿でスープが付いてくるみたいか。Japonski rezanci na juhi?... ほんとうはどう言えば誤解がないか、スロヴェニア語で考える能力は、いまの僕には無い。

ほんのわずかな「誤訳」が大きな誤解をまねく。まあ、この例は全体として瑣末なものだけれど。

    
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marbleblast.png

ここしばらくの Mac ハードにバンドルされている MarbleBlast。中空に浮かぶステージの上でボールをあやつり、エッジから落ちないようにできるだけ短いタイムでゴールに導くゲーム。以前やってみたとき、Beginner コースのレベル8がとてつもなく難しかった。エッジから出たボールに逆回転を与えて、その下の階に戻さなければならない。どうしてもクリアできなくて、放り出してしまった。

最近、ふと思いついて marbleblast でググったら、その一番目に、攻略法のテキスト(英文)が出てきた。おかげでレベル8もあっさりクリア。と同時に、これに気付かなかった自分の頭の固さ、空間把握の固さ、文字通りのパースペクティブの硬直ぶりに気付いてちょっとがっくり。

でも、このレベル8がダメだった人は案外多いのではないだろうか。もしあなたがそうだったら、Google から始めて、同じようにやってみてください。これさえクリアできればあとはスキルの問題だと言ってもいいので。

    
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この前、カレーソーセージをネタにしたら、Uwe Tim による小説、4309204392.09._PE_SCMZZZZZZZ_.jpg
『カレーソーセージをめぐるレーナの物語』
の邦訳が出ていて、この浅井晶子さんの翻訳であわてて読んだ。レーナと呼ばれるある女性の愛の物語が、一般に流布しているベルリン起源説とはちがった、ハンブルクを舞台としたカレーソーセージの起源神話となり、それがさらにそのまま戦中戦後のドイツの歴史の語りにもなっている。一人の女性に焦点化した戦争時代の物語という意味では一頃までのNHKの朝ドラに重なるのだが、ウーヴェ・ティムのストーリーテラーとしての力は確かなものだし、翻訳もなかなかいい。訳者とともに、自分は「本物の」カレーソーセージを食べたことがないのかも知れぬ、という気にさせられる。

    
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[map.search.ch] - Karte: Schweizの地図がなかなかよくできている。衛星/航空写真風の地図で、もちろん住所を入力して表示させることも、クリックで次々に拡大図を表示させていくこともできる。

レストランやショッピングスポットを表示させられるのは当然として、すぐれているのは公共交通機関の表示。最近付加された機能らしいが、トラムやバスの停留所にマウスを合わせると、そこの直近の発車時刻が表示されるのだ。

timetable.jpg

    
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少し前にMovableTypeのバージョンアップをしたときあたりから、コメントができなくなっていたらしい。いや、かなり以前、コメントスパム除けの細工をしたときにミスしていたのかもしれない。シムさんからご指摘いただくまで気付いていなかった。(どうもコメントがつかないなあとは思っていたけれど。)あわてて確かめてみると、コメント関連のcgiファイル名がおかしくなっていたようだ。
たぶん直ったと思うので、皆様どうぞよろしくお願いします。

そうそう、シムさん、トラックバックと Go Shimward! での関連記事、ありがとうございました。

    
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I'm always happy to see some good old arcade games I played on the old Mac OS, BOOM and Apeiron for example, reborne for Mac OS X. I hope that Ambrosia who revived the APEIRON for Mac OS X, would also remake the unique Mac-like game: Harry the Handsome Executive.

I also liked the little arcade game, Scruffy ][ by Brian Barnes, very much, though it was a bit unstable and I could not clear all the stages because of system errors back then. The screenshots of the game can still be seen here. It does not seem probable to see this game on Mac OS X. But I hope I could play it again on the newest system...

前にドイツ語で Sakura の紹介を書いたことがあるけれども、英語はわれながらさらに不細工な作文にしかならない。ま、何かの機会にHarryやScruffyの作者(あるいは僕と同じ古いファン)が読んでくれて何とか通じればいいのだ。Apeiron や BOOM は実際お薦めです。BOOMは二人で遊ぶのにもいい。

    
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村上龍主宰のメールマガジンJMMで、リュブリャーナ在住の成田真巳さんという方のスロヴェニアからの発信が始まった。「ナズドラウィエ! from スロヴェニア」。7月6日発行の No. 330 は、その第2回。最新号のうちはここでも読める

スロヴェニアに関心のある人は読んでおいて損はないだろう。

    
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Shim-Kさんのところも、フェルデンクライスとか、太極拳とか、気功とか、いろいろ身体の調子を整えるために大変なようだ。たぶんあまり違わない年代なので、僕もけっこうガタがきていて、人ごとではないのだが、個人的にさらに音楽-楽器にからんだ関心が加わる。

楽器のなかでも、特異な構えを要求されるヴァイオリン。以前に呼吸の話をちょっと書いたけれども、腕を、指を、さらには全身を、どうコントロールするかというのはつよい関心をひく問題だ。

数年前に、「アレクサンダー・テクニーク」を称するバーバラ・コナブルの「音楽家ならだれでも知っておきたい『からだ』のこと」が出たとき、新鮮だった。

もちろん、ことは演奏全般に関わるのだけれども、ここであえて具体的な例を挙げておくと、たとえばブラームスのヴァイオリンソナタ第3番の1楽章冒頭のボウイングが、僕にとっては以前から問題だった。
brahms3.png

コナブルがすでにたとえば腕の骨格について啓発してくれてはいた。手指の細かい関節は除いて、腕の関節は何ヶ所か。たいていの人は3ヶ所と答える。手首、ひじ、肩だ。しかしこれは誤り。正解は、4ヶ所。鎖骨も腕の一部であり、首のすぐ下の鎖骨がつながっているところも勘定に入れなければならない。このことを自覚しているかいないかで、弓元で上腕を使う際にちがってくる。

それはいい。でも上記のブラームスは、この認識だけでも何かが足りなかった。譜面で見られる通り、冒頭のこの主題は、一小節半、全音符の a2 から2小節めの c3 にいたるまで、長いワンボウ。psotto voce なのだけれども (ma)、espressivo。つまり、音量は弱めなのだけれども、説得力のある息の長い歌い方が要求される。もちろん、espressivo なのだから、やや駒よりにして、弓は立て気味にして毛を少し多めに弦に付けようとか、ヴィブラートはしっかりかけよう(d3 の4指では、1指は弦から離したほうがいいようだ。ただし八分音符の c3 に移ったら左手はただちに4指の緊張をゆるめて、よけいな力の抜けた適正なフレームに戻さないと c-b-c のイントネーションも音色も乱れる)とか、そのへんまでは思いつく。3小節め4小節めの、ブラームス特有の膨らましのある部分も、1小節のみの範囲で、弓圧や弓速や弦への接触点をコントロールすればいいので、それほど難しくない。だが、しょっぱなもしょっぱなのこの部分、p とはいえ、これだけの長さを(テンポ設定にもよるが)ひと弓でまかなって、萎縮したみたいな弾き方にならないようにするには、まだ何かが足りない。もちろん、ワンボウをあきらめて、2小節めの頭で弓を返してしまうという「反則技」もあるだろうが、それはここではやりたくない(27-28小節めや218-219小節めで同じ主題が ƒ で出てくるところ、p だけれども真ん中で ƒ にふくらんで前打音もはいる258-259小節めでは、もちろん弓を返してしまう)

中学か高校の頃、オイストラフとリヒテルのLPでこの曲を聴くようになって気に入り、まもなく日本の女性奏者のリサイタルでも聴いたとき、この主題が異様にかぼそく聞こえて、あれっと思ったのだが、自分でやってみたら本当に難しい。それ以来、ここをどう弾けばいいのかは長年の謎だった。

最近、「みるみる演奏が楽になる5つのエクササイズ─ヴァイオリン体操 実技編」(なんともベタなタイトルだが)がさらに新たな認識を与えてくれた。コナブルと基盤は共通するものがあって、さらに突っ込んだ認識と身体感覚を与えてくれる。この本の中に、ボウイング動作にかかわる腕の構造のイメージトレーニングがある。腕の付け根がどこにあるかというイメージのしかたによって、ボウイングが変わってくるのだ。腕の付け根が肩にあるものとイメージしてボウイングを行った場合、腕の付け根が「壇中」(胸の中央)にあるものとイメージした場合、「丹田」(へその少し下)にあるものとイメージした場合などなどで、腕の感覚が変わってくる。どのイメージも使いようであって、「必要に応じて腕のイメージを自在に変えてボウイングができるようにしましょう」ということになる。上のブラームスの場合、腕が丹田から出てきているイメージが正解のようだ。まだ読んで知ったばかりで身に付くには到っていないのだけれど、一歩解決に踏み出したような気がする。

    
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