ボヒン(5)

ボヒンの軽いウォーキング・コースは、一つ一つ特色があって楽しい。

湖の奥のサヴィツァ小屋 Dom Savica からサヴィツァ滝に登るコースはすでにあちこちで紹介されている。伝説のまといつくこの高名な滝は実際一見の価値がある。が、そこまでの道はコンクリートで固められてしまっている。

北の谷のスタラ・フジーナの集落から、狭く深い峡谷をほとばしるモストニツァ渓谷を歩いていくと、谷の奥は、たぶん氷河時代に形作られたU字谷だろう、意外にも大きく広がった気持ちのよい牧草地になっていて、そのどん詰まりにやはり滝。(上のサヴィツァ滝に行くコースと、このコースは、入り口のキャビンで入山料を払う。)

同じスタラ・フジーナを出発点に、ストゥードル山 Studor の北側を登り、ウスコウニツァ Uskovnica の台地に広がる大きな牧草地の中を歩くコース。途中、Lom や Mlaka の集落では、そこで作られたチーズ (sir) を味わうことができる。(1950年代後半まで、高地の28ヶ所の牧草地でチーズが作られていたが、現在ではすべてスレドニャ・ヴァース Srednja Vas の工場に集約されている、と Steve Fallon のガイドブックにはある。しかし少なくとも1996年にはこれらの集落でも作って売っていた。)ボヒンのチーズはハードタイプで、とっつき、素っ気無い感じだが、じわりと広がる味わいがある。ウスコウニツァから西に向かって降りていくと、先のモストニツァの奥の牧草地に出る。(チーズや蕎麦粉を使った伝統的な山の食事は、スターラ・フジーナの民俗博物館、Planšarski Muzej に隣接する食堂でも試せる。)

ボヒンスカ・ビストリツァを基点に、鉄道の線路をくぐり、その南東方向、ネムシュキ・ロウト Nemški Rovt の集落からラウネ Ravne の集落まで、南ボヒン山脈の基部の山腹に点在する牧草地と森林をめぐるコース。樹林の中にぽっかりと空いた草地が次々に現れる。森の中のこういう草地をドイツ語で Lichtung と呼び、それを晩年のハイデガーが哲学的ジャーゴンに仕立て上げたことはよく知られている。背の高い黒々とした森に囲まれてぽっかりと現れる目にも柔らかな草地は、かすかな不安の影をまとった安心感のような、不思議な感覚を呼び起こす。

ボヒンスカ・ビストリツァの西、南の谷の南寄りに、おだやかに起伏する丘がある。Dobrava ドブラヴァという名がついている。氷河時代のモレーンだ。全体が牧草地になっていて、作業小屋が点在するこの丘は、ハントケの『反復』で重要な舞台の一つとなっている。ボヒンスカ・ビストリツァに投宿した少年は、毎日ここに登って、兄の遺品である古い大きなスロヴェニア語=ドイツ語辞書に読みふける。このドブラヴァをめぐるコース。明るく開けた丘の上からは、四囲の山々の眺めがとてもいい。そのまま西にたどると、カムニェの隣のポーリェの集落に降りる。『反復』の拙訳の表紙カバーに使った写真はここだ。

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同じくボヒンスカ・ビストリツァから、ポザブリェノ Pozabljeno (忘れられた土地、といった意味だろうか)を通って、これも山腹から湧き出すビストリツァ川の源泉 Izvir Bistrice に到るコース。大部分は林道歩きだが、泉に到る直前、左側の斜面からも滝が吹き出していて、水量の多いときは、通行も困難になる。夏でもなにしろ冷たい水なのだ。一時期、ここをダムにしてしまう愚かしい計画があったが、どうなっただろうか。泉から北側の斜面を登ると、ジュラン Žlan の集落を通って、ポーリェの村に出ることもできる。

ボヒン湖の北岸をだどるコース。南岸は自動車道が走っていて(その脇に遊歩道はあるが)、キャンプ場もあるのに対して、北岸は静かだ。

夏場、どのコースも本当に気持ちがいい。命の洗濯、という古めかしくもキッチュな表現がつい頭に浮かぶ。

    
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このページは、takuyaがmaj 26, 2005 12:01 AMに書いたブログ記事です。

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