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エーミールと探偵たち

エーミールと探偵たち
松竹 (2003/12/25)
売り上げランキング: 5,897
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この blog の "German Cinema" カテゴリーでは、日本では未公開のドイツ映画ばかりを紹介してきたのだけれど、2003年のこれは国内DVD既発売。三度めの映画化だ。
ケストナーの名作を換骨奪胎して、うまく仕上げている。今どきのドイツのガキどもにいかにも受けそうな飾りやくすぐりや演出。ベルリンの子供たちの中心にいるのはグスタフではなくて女の子のポニー。ポニーの口笛にこどもたちが集まってくるシーンにはラップ。ラップは、今のドイツのこどもたちには受けがいい。こんな DVD が爆発的に売れているくらいだ。

最初2回(1931年と1954年)の映画化作品は、このDVD一枚に収められている。
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1931年のウーファの白黒映画は当然ながら原作に一番忠実。1954年のシュテンムレ監督作品、そし2003年のブーフ(ブッフではない!)監督作品へと、少しずつ原作から離れた脚色や設定が大きくなっていく。それでも3作品ともまぎれもなくケストナーの『エーミールと探偵たち』であり得ている。何が変わって、何が変わらないかに着目するのも面白かろう。

ベルリンを象徴する風景の違いも面白い。54年版では、第二次大戦の傷跡の象徴であるカイザー・ヴィルヘルム教会。03年版では、東西統一によって再び通行可能となったブランデンブルク門。

注目すべきは、最初の映画作品のスクリプトをビリー・ワイルダーが書いていることかもしれない。ハリウッドに行く前の ヴィルダー(Wilder)。その名前は、54年版にもクレジットされている。新聞記者をやっていた Wilder が映画のスクリプトに手を染めたのは29年。33年にはナチスを避けてアメリカに渡ってしまうのだから、このわずかな時期にエーミールが製作されたことは僥倖と言うべきなのかもしれない。

2003年版では、エーミールは母親ではなく父親と二人暮らし。しかも現代ドイツの離婚率の高さを反映して、母親が家を出て行ってしまったことになっている。ポニーの両親も離婚の危機にあり、グスタフの母親であり、夫と死別した女性牧師が、最後にはどうやらエーミールの父親と仲良くなっている。(原作にはないこの牧師、『愛され作戦』Stille Nacht で好演していたマリア・シュラーダーがとてもいい。)

この物語を起動させるには、まず最初に優等生のエーミールが警察を恐れるようになるエピソードを置かなければならない。これもそれぞれ。1931年版は原作にほぼ同じ。1954年版では海賊ごっこをやっている子供たちの仲間になったエーミールが仲間とともに、捕えられたアザラシを海に逃がす。2003年版では、古着/古靴泥棒。これは日本の観客には説明が必要かもしれない。ドイツの街角には、いわゆる途上国へ送る古着、古靴を集めるコンテナがある。2003年のエーミールは、お前の格好はベルリンみたいな都会に行くにはダサすぎる、と友人に言われて、この友人とともに、古着古靴コンテナをこじ開ける悪事に加担するのだ。

31年版、54年版についてもう一つ必要かもしれない注釈は、かつてのドイツのホテルのトイレ。かつてのドイツの安宿ではトイレは共用で、"00" という「部屋」番号がついていた。"00"という名前のトイレ用洗剤もある。

悪党グルントアイスを警察に引き渡したあとの後日談もそれぞれだ。なぜかエーミールたちが警察のスポーツ大会に招待されることになって一番冗長なのが1954年のエーミール。一番しっくり来るのが友人たちとの再会をプレゼントされる2003年版。これはポニーを「探偵たち」の中心に据えたことが効いている。
エーミールとこどもたちの集団が悪党を追いつめていくシーンが一番迫力を持っているのも最新のフランツィスカ・ブーフ作品ではないだろうか。

2003年版の主演の二人、エーミールのトビアス・レツラフとポニーのアーニャ・ゾマーヴィラは、DVDに収録されたインタビューで、ほっとするほど素直に、こどもは団結することが大事なんだ、と言っている。監督のフランツィスカ・ブーフは、ちょっと醒めていて、こどもがあんなふうに団結することなんてありえない、でもこの物語のああいう状況をみて、自意識を強めるだろう、と言う。

映画はいずれも名作だが、三番煎じのブーフの2003年作品がとてもいい。

原作のペーパーバック版:

原作の朗読CD: